第107話 へろへろと奈落の逸話と騒動の兆し
マップ上でハイムの場所は確認できてるし、せっかくここまで来たんだから天井の鉱石ラインを追いかけられるところまで追いかけてみようと思い立って、高度を上げた。
相変わらずぴりぴりする肌触りが、まるで静電気が溢れているみたいで気持ち悪い。
少し東寄りに飛んだところで1本のラインを見つけたので、それをたどってみた。
「おいおい。ふらふらしてないで、さっさと戻って……なんだ? 本当にふらふらしてないか?」
「え?」
あっちは小さい窓から外を見てるから、余計よく分かったのだろうが、確かにクロが少しふらついている気がする。
魔力が無くなるにはいくらなんでも早過ぎる。
「お、おい、大丈夫か? クロ?」
クロはコクコクと頷いているが……
そのとき目の前に、追いかけていたラインが5つのラインに分岐している場所が見えてきた。
東~南よりの3本は脈動しているが、北寄りのラインはうすぼんやりと光っているだけで、西よりのラインは完全に沈黙している。
それらがまとまって、さっきのトンネル方向に向かうラインから出て行っているように見えた。
ラインがまとまっている中心に近づくにつれて、クロの揺れが大きくなっていく。え、これ、やばくないか?
ここで墜落したりしたら、でっかいムカデの餌食になる未来しか見えないんですけど。ってその前にここから落ちたら死ぬんじゃね?
急いでその場を迂回して、全力でハイムに向かう。
高度をとっていたから良かったが、これはもう斜めに墜落しながら滑空している――昔、先輩に無理矢理山梨で体験させられたパラグライディングみたいな感じだった。
「おい、クロ、おい!」
クロは目をぐるぐるにして、キュー……とか
風の精霊に支えられているから、徐々に高度を落としながらハイムの方向には向かっているが……これ、間に合うのか?
「おい! どうしたんだ?」
皿からハロルドさんの声が聞こえる。
「クロが気絶したみたいです!」
「はぁ? 気絶!? それで墜落……はしてないみたいだな」
「滑空する感じでそちらに向かってるんですけど、これ、なんか、
「なんだと?!」
あ、ハイムを設置した場所が見えてきた。みんなハイムを出て、こちらを指さしている。
あああ、このままだと1mくらい下に激突しそうだ。
「おい、クロ! クロ!しっかりしろ!!」
「うっきゅー」
かくんと高度が下がるのと、何かが凄い勢いで俺にぶつかってきたのが同時だった。
その何かは、クロの胴体のまわりをぐるぐる回ると、俺を捕まえて跳躍した。このもふもふ感は……
「リーナ?!」
「ふっふっふ。参照!なのです」
いや、それ、参上だろ。参照してどーすんだ。
そのままくるんと1回転して、岩棚へと着地する。って、クロは?!
「大丈夫ですよ」
とノエリアが言う。ハロルドさんが引っ張るロープの尖端にはクロがぶら下がっていた。
すっげぇ、バトルホースって、どう見ても1tくらいありそうなのに。
「馬鹿野郎、あんなのが持ち上げられるわけねーだろ。嬢ちゃんの重力魔法だよ」
ああ、なるほど。でもまあ、助かって良かったよ……
◇ ---------------- ◇
その後岩棚の上でなんとか
いったいなんなんだ? これ? 天界ポーションで回復しないってことは、
「これはよくわからんな。とりあえず、教会に連れて行って見て貰うしかないだろう」
教会。教会かぁ……ううん。
あ、サヴィールに見て貰えばいいか。ちょうどコートロゼに繋がってるし。
しかし、ハイムの出口記憶は2カ所なので、ここを記録しちゃうと、次にハイムを開いたときにコートロゼが消えてしまう。
リンクドアの片方を置いていくのもこんなオープンな場所だと危険だし……
「ここは、いいんじゃないか? どうせプリマヴェーラが攻略されるまでは、巨人の部屋から入れるだろ」
「でもあの階段の所、入れなかったのです」
ああ、そういえば逃げ出すときリーナが入り口をくぐろうとしてはじかれていたな。
「一方通行だったのかもしれんし、まあ、いざとなったら、遺跡の攻略に乗り出してもいいだろ」
確かに行った先のフロアまではマップに記録されているから、近づけば分かるはずだ。
「とにかくクロが心配です。ハイムからコートロゼに抜けて、サヴィールに見て貰いに行きましょう」
◇ ---------------- ◇
「魔力酔いですね」
コートロゼについてすぐ、ハロルドさんにサヴィールを呼びに行ってもらう。
途中で会ったダルハーンが、いつお帰りになったので?!と目を丸くしていたが、ついさっきだと適当にあしらっておいた。
サヴィールが駆け込んできた後、数分クロの様子を見た後、ほっと安心したように息を吐いてそういった。
「魔力酔い?」
サヴィールによると、体内に魔力が過剰にたまった状態だそうだ。
魔力には、魔力圧の強い場所から弱い場所に流れ込んで、圧を平均化しようとする力が働くそうだが、通常生物は自分の体内の魔力圧を一定に保ち続ける力を持っていて、影響を受けにくくなっているそうだ。ホメオスタシスみたいなものかな。
それでも、非常に圧の高い場所などにいると、無理矢理魔力が体内に侵入してきて魔力酔いになるのだとか。
魔力酔いねぇ……
--------
クロ (4) lv.41 (バトルホース)
HP:9,601/9,601
MP:2,896/2,547
SP:88+76 (used)
言語理解 ■■■■■ □□□□□
人化 ■■■■■ ■■■■■
精霊術 ■■■■■ ■■■■■
弓術 ■■■■■ ■■■■■
飛翔 ■■■■■ ■■■■■
カール=リフトハウスの加護
--------
ありゃ、MPが最大値を超えてるよ……これか?
クロは一応魔物だから、周囲の魔力を吸収して体内に蓄える性質が強いとはいえ、こんな酷い魔力酔いになるなんて、一体何処にいたんです?
とサヴィールに聞かれたが、俺たちは笑ってごまかした。
魔力酔いは、普通の場所にいれば、徐々に正常に戻るそうで心配はいらないとか。逆にこの状態で過剰に魔力を放出すると、内部が空洞になった分、勢いよくまわりの魔力が流れ込んできてあまりよくないそうだ。
「しょうがない。しばらく寝てろ」
「んっ」
「クロ~」
リーナが心配そうにクロを見ている。
「寝てれば治るってさ」
「でもでも、苦しそうなの、です」
「じゃあ、リーナが見ててくれるか?」
「お、おまかせなの、です!」
かんごふさーんとかぶつぶつ言ってる。大丈夫かな。
俺はこっそりノエリアに目配せして、見てて欲しいオーラを出すと、にっこり笑って頷いてくれた。
「じゃあ、クロがよくなるまで、しばらく休憩だな」
「そうですね。どうせ寝てるだけなので、ハロルドさんも羽を伸ばしてて下さい」
「おう。なんだか久しぶりの休暇な気がするぜ。どのくらいかかるって?」
「個体差があってよくわからないそうなので、とりあえず2日くらいお休みにしますか」
「了解。じゃ、俺はダグでも誘ってみるかな。リーナ嬢ちゃんはついでに武器のメンテでもしたらどうだ?」
「でもでも、看護婦さんがあるの、です」
リーナがぐっと両手で握り拳を作って力説する。
「メンテは大切だよ。その間だけ僕とノエリアで見てるから、リーナも行ってきなよ。ムラマサブレードが綺麗になったら代わってくれる?」
少しだけ、どうしようかなと考えていたリーナが頷いた。
「わかりました、です。すぐに戻って来ます、です!」
◇ ---------------- ◇
「地下に繋がれた巨人、ですか?」
その後俺とサヴィールは、領主館の執務室でお茶をしていた。
ついでに、あのミーノースについて、なにか逸話でも残ってないかと思って聞いてみたのだった。
「生物の命が尽きたとき、それを冥府の入り口でさばく3人の審判のうちのひとりが、囚われて何かを守らされているというお話なら伝わっていますが……」
それだ!
「へー、それはどんな話なんです?」
サーヴィールによると、昔、底がないかと思われるくらい地下深くの監獄に、巨人族が幽閉されていたそうだ。
その深く幽閉されていた場所を、頭がサソリで、下半身は蛇の鱗、そして漆黒の翼を持った女の魔物が守っていた。
「新聖典によると、勇者一行がそれを倒し、幽閉されていた者をすくって魔王の討伐に力を借りた、とあります。代わりに幽閉していた者を監獄に閉じこめたそうです」
そして討伐が終わった後、魔王の遺骸は、地下の監獄よりも深い何処かに封印されて、その封印を守るために幽閉されていた巨人の一人を、呪われた鎖で縛ってそこに置いたということだった。
「討伐したのに封印ですか? しかも助力したものを縛って見張りに?」
「新聖典ではそうなっています。聖典研究者の解釈は色々ありますが、遺骸が非常に危険だったとの見解で一致しています」
「危険ってなにがです?」
わかりませんと言って、苦笑しながら首を振った。
「新聖典は、ということは古聖典では違うんですか?」
「断片過ぎてよく分からないというのが正直なところですね」
そりゃそうか。はっきり分かっていたら、新聖典に対する問題点の指摘として出てくるだろうしな。
それにしても呪われた鎖ね。
ミーノースのステータスには、確かに、
「その鎖の呪いって、どんなものなのか伝わってるんですか?」
「はい。魔力を集め、囚われたものに強制的に送り込むことで、ほとんど不老不死のような力を与える代わりに、大きく思考や行動の自由を奪うアイテムのようですね」
それであの再生力なのか。
「魔力を集めるのは、鎖が繋がっている杭の部分だと言われています」
じゃあ、その杭から魔力を吸い上げたり、魔力の供給ラインを断ったりすれば、あの不死性はなくなるってことか。
近づいただけでクロが魔力酔いするほど濃厚な鉱石のラインを切るのはちょっと無理なんじゃないかと思うし、苦労して切断して、実は供給元が違いましたなんてことになったらバカらしいから、なんとかするとしたら杭の方か。
魔物が何もいない空間だったし、いっそのこと吸魔の像でも設置してやろうか。
「カール様?」
「あ。え、なんです?」
「いえ、なんだか悪巧みする悪党みたいな顔をしてらっしゃいましたよ?」
くすくす笑いながら、サヴィールが指摘した。
「え? え? 本当に? 参ったなぁ」
「そういえば例の資料ありがとうございました」
「資料?」
「ほら、あの手記ですよ」
「ああ。お役に立ったなら幸いです」
「あの地図を見て、早速調査に出向いたグループが3つもあるんですよ。何か見つかると良いんですが」
見つかったとき、その中に何もいなきゃ良いんだけどね。
「みんな、探検に危険はつきものだから、問題ない。とか言ってました……やはり、あの署名が熱くなった原因ですね」
「ああ、ウーダですか」
「はい。もし、かのウーダだったりしたら、歴史がひっくり返りますよ」
召還時に命を落としたはずの聖人の書なんてなぁ……しかもなにかその実験?を異様に恐れていた感じだし。
その日はその後もサヴィールに、聖典にあるいくつかの逸話について解説して貰ったのだった。
◇ ---------------- ◇
「ああん? 貴族がプリマヴェーラで行方不明になってるだと?」
数日後、ガルドでは騒ぎが持ち上がっていたのだが、クロの回復を待っていた俺たちには知るよしもなかった。
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