第8話 カール君、お家?を手に入れる。

ドアだ。どこをどう見てもただのドアだ。

しかし、厚みがゼロなのか、横にまわるとなにもない。裏に回ってみてもなにもない。

一方向からだけドアと認識できる、謎ドアだ。


「おいおい、今度はなんだ?」


ドアの周りをくるくる回っている俺を見て、ハロルドさんが近づいてくる。


「これはハイムってアイテムなんですが、なにしろ、私も初めて使ってみたので……」

「ハイム? 俺には薄っぺらいドアに見えるが?」

「奇遇ですね。私にもそう見えます」


ハロルドさんが、可哀想な子を見るような目つきでこっちを見ている。いや、待って下さいよ、凄い機能があるんですよ。天界製ですよ?


「どうやって使うんでしょうか?」


ノエリアが興味深そうに聞いてくる。

リーナはくんくん匂いを嗅いでる。なにやってんだ。


「いや、ドアなんだから開ければいいんじゃ……」


ノブに手を触れた瞬間、目の前が暗転したと思ったら……玄関にいた。

えー、な…何を言っているのか、わからねーと思うが(Ry

なんですか、ここは? これがホントの、『いしのなかにいる』?


「きゃっ?!」

「わわわわわっ、です!」

「うぉ、なんだこりゃ?」


部屋の中に、ノエリアとリーナとハロルドさんが現れる。

きっと俺を追いかけてノブに触れたんだな。




なんというか、無駄に広い玄関ロビーっぽい場所だ。

その中は、なんとも立派な1LDK。家具付きだ。

ダイニングとリビングで20畳以上ありそうだし、ウォークインクロゼット付きの主寝室も同じくらいありそうだ。


寝室には大きな硝子窓があって、夜っぽい外が見えるが開かなかった。

リビングからは何処かに通じるドアのようなものもあったが、こちらも壁と一体化していて開かなかった。


凄く広いお風呂とシャワー、それにトイレと、コンロはガスっぽいけど、システムキッチンまで付いていて、どう見ても日本製だろ、これ。


「おいおい、ついさっきまでいつ死んでもおかしくない、決死の行軍の真っ最中だったんだぞ? いったい何処なんだよ、ここは?」


ハロルドさんが苦笑しながら部屋を見て回っているのを横目に見ながら、俺はノエリアにキッチンの使い方を教えていく。

彼女は水道に驚き、コンロに驚き、冷蔵庫にに驚いている。しかし、なんだここ。スチコンに食洗機まであるのかよ。こんなのを教えるのは後だな。


「このような魔道具は見たことがありません」


そういいながら、ノエリアは真剣に説明と注意を聞いていた。


魔道具ね。よくある魔石で動く的なあれかな。

しかし、この部屋の器具は、ガスだの電気だので動いているように見えるな。だってさ、壁のコンセントに冷蔵庫のプラグがささってるんだぜ?

天界電力からものすごい請求書が来たりしたら、どうしよう……


それにしても、魔道具か。普通奴隷はそんな高価な物を見たりしないと思うんだが……やはりノエリアは、どっか良いところのお嬢様かなんかだったんじゃないのかな。称号にあった、ノエリア=シエラ=ラップランドってのも気になるし。

なんて考えてたら、トイレの中から素っ頓狂な声が聞こえてきた。


「なんだここ、顔を洗うところか?」


ハロルドさんが、便器をのぞき込みながらそんなことを言っているのを見て、あわててそっちへ駆け寄った。


  ◇ ---------------- ◇


一通り説明をおえた後、リビングのソファにどさりと座り込んだ。

ノエリアは台所を調べながら、お湯を沸かしているようだ。リーナはダイニングのテーブルの下に、ちょこんと座っている。下? なにやってんだ。


「リーナ、なにしてる?」

「ご主人様をお待ちして、座っている、です」

「椅子に座りなよ」

「そ、そんなことをしたら、おしおき、です」


リーナはおびえるようにそういった。


立ち上がって、リーナの隣の椅子に腰掛けながら、困った振りをする。


「誰もそんなことはしないよ。リーナが椅子に座ってくれないと落ち着かないなー、困ったなー」

「ご、ご主人様が落ち着かないのはよくないです。座るです」


ぴょこんと跳ね起きたリーナは、おそるおそる椅子に腰掛けると、

背もたれにもたれてみたり、足を伸ばしてみたり、その場所が結構気に入ったようだ。


「よし、これからそこはリーナの席な」

「リーナの、ですか?」

「そう。そこはリーナの場所だ」

「リーナの……はい、なのです」


目をウルウルさせながら尻尾をぶんぶん振っている。椅子に名前を書き込みそうな勢いだな。


「ご主人様、お茶をどうぞ」


ノエリアが、カップに入った香り高いお茶を持ってくる。

え、お茶なんてどこに?


「台所にストッカーがあって、中に色々入っていました。……勝手に使っては不味かったでしょうか」


そういえば冷蔵庫にもなにかしら入ってたな。シールス様もなかなか気が利くじゃないか。もしかしてそれで、腕輪には食料らしきものがなにもなかったのかな?


「いや、大丈夫だよ。それで、何か食べられるものはあった?」

「小麦粉と調味料類、あとはいろいろな野菜と丸鳥も1羽ありました。詳しくはあとで整理しておきますが、パンをお焼きしましょうか?」

「え。焼けるんだ?」

「はい。もう17ですから」


年齢関係あるのかよとは思ったけれど、この世界の成人の常識とかなのかな。みんなお腹減ってるだろうから、パンとお茶だけでも食べられると嬉しいと伝えて、焼いて貰うことにした。


リーナがカップを両手で挟んで、ふーふーしている。狼も猫舌だったのか。


部屋の探索から戻ってきたハロルドさんが、ダイニングに顔を出しながら、

「いやもう、助けが来るまでここで寝てようぜ」


なんて軽口を叩いてくる。

何日も経ったら、死んだと思われて誰も助けに来ないんじゃないですかね。まったく。


「そういや、貴族の屋敷でもめったに見かけないような広くて立派な風呂場があったが、ガラスが透明な上に、巨大で完全な鏡が据え付けてあったぞ。どうなってんだよ、ここは」

「こっちにガラスや鏡って無いんですか?」

「こっちってな……」


なんだか微妙な顔をしながら説明してくれたところによると、こっちでガラス窓と言えば、いわゆる瓶底を集めたようなロンデル窓やステンドグラスらしい。

それだって、相当に高価な物らしいが、はまっていたのは現代の板ガラスだ。オーパーツもいい加減にしろってレベルなのか。割れたらどうするんだよ、まったく。


確認ついでに、食事の前に、お風呂を使おうと思ったんだけど、替えの服がない。流石にクロゼットはほとんど空、タオルくらいしかなかった。まあ、命に関わらないしね。

そういえば、洗濯ってどうしてるんだろうと聞いてみたら、この世界には生活魔法というものがあって、ネトワヤージュって呪文で綺麗になるそうだ。


レベル1でよかったら、一応持ってるぜ、とハロルドさん。

レベル1がどの程度がよく分からないというと、ギリギリ我慢できる程度の、ないよりましな汚れ落とし、なんて苦笑いしながら言ってた。

もともとハロルドさんは魔法が苦手なんだって。


そういやノエリアのスキルで、見たような気がするな、生活魔法。

メニューからノエリアを選択する。


 --------

 ノエリア (17) lv.13 (人族)

 HP:1,238/1,238

 MP:1,583/1,583

 

 所有者:カール=リフトハウス

 

 SP:52+0(used)

 生活魔法 ■■■□□ □□□□□

 重力魔法 ■■□□□ □□□□□

 

 カール=リフトハウスの加護

 ノエリア=シエラ=ラップランド

 --------


ぶーっ!


「うわ、なんだよ、汚ねぇなっ!」

「す、すみません。ちょっとくしゃみが……」


なんて、必至でごまかしたけど、なんだよこの数値。lv.13でもうハロルドさんよりも多い? 同じ人族なのに? ……やっぱ、祝福のせいなのか?

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