第7話 脱出開始

そう思っていた時期が俺にもありました……

あのね、岩って割れるんですよ? 知ってました?


巨岩アタックを何度も繰り返し、すっかり作業になっていて油断していたのが不味かったのか、落とした巨岩が粉々に……いや、いくつかの中くらいの大きさの岩に、大きな音を立てて割れてしまった。


げげっ。あの中型の岩1個じゃ、今までみたいに討伐どころか入り口をふさげるかどうかも微妙だよ。

討伐ログの表示によると、スワンプリザードの討伐数は749匹。マップ上の赤い点も、さすがにまばらになってきてるし、今ならこの部屋の入り口付近に近い個体はいない。

ここは脱出の一手かな?


「ハロルドさん、岩も割れてしまいましたし、今のうちに脱出しませんか?」


真剣な顔で入り口付近の気配を探っていたハロルドさんも賛意を示す。


「ああ、そうだな。嬢ちゃんたちも行けるか?」


リーナとノエリアの方を振り返ると、力強く頷く二人。


「リーナ」


一声かけると、リーナは鼻をひくひくさせながら、あたりの匂いを嗅ぐようにして入り口付近に近づいていく。

休憩中に聞いたところによると、銀狼族は狩りに秀でた種族で、高い探知の能力を持っているのだとか。奴隷として買われた後は斥候として働かされることも多いそうだ。


「近くに怖いのはいません、です。遠くにはまだ沢山いるみたい、です」

「さすが銀狼族、頼りにしてるぜ。じゃ、俺が先導するから、その方向に敵がいそうなら教えてくれ」

「はい、です!」


入り口を半ばふさいでいた巨岩のかけらを収納してできた隙間からするりと抜けたハロルドさんは、沼の出口だと思われる、ギョームが逃げた方向に向かって素早く移動を開始した。進行方向は……クリア。赤い点は見あたらない。

んー、便利なんだがもう少し遠くまで見えたらな……

そう考えたとたん、マップが縮小し、表示領域が拡大した。


え、なにこれ? 表示領域って広げられるの?


ハロルドさんの背中を追いかけながら、いろいろ操作してみると、拡大したり縮小したりスクロールしたり出来るようだ。

ただし、ある一定の広さ以上は黒くマスクがかかっていて、どうなっているのかはわからない。

どうやら、認識可能範囲みたいな制限があるようで、マップを広げて出口を探すってわけにはいかなかった。


  ◇ ---------------- ◇


それからどのくらい時間がたっただろうか、先導しているリーナが小石に躓いてよろけた。

それを見て、リーナの隣で注意深く進んでいたハロルドさんが声をかけた。


「なんだ嬢ちゃん、疲れたか?」

「へ、平気なのです」


今のところ魔物をうまく避けていて、闘いは最小限に押さえられているけれど、そのぶんリーナはずっと索敵に集中しているだけに、そろそろ休憩させてやらないと、きついだろうな。

でも、リーナは意外と意地っ張りだし、ハロルドさんはそれをおもしろがってるフシがあるしな。

ここは俺が……


「あー、ちょっと疲れたかな。リーナ、その先のちょっと奥まったところで休憩にしない?」


と水を向けてみる。


「そ、それは大変です。休むのです。休まなければーなのです」


ワタワタしながらそういって、その場所の周りを素早く確認した後、トスンと腰を落とすリーナをノエリアが優しい眼差しで見つめていた。


「ノエリアは平気?」

「私はご主人様について歩いていただけですから」


そういって微笑んだ。


休憩と言っても、ただ座って休むだけじゃ、そんなに回復はしないだろう。

食料もないし、ギンギン24の正しい服用量は1日1本だし(3本くらい飲んでも一時的になら平気だろうけど)、それで一体どのくらい持つものか。


そうだ、さっきはバタバタしていて試せなかったけれど、

腕輪の中にハイムなんてのがあったよな。説明が「おうち」とか酷いし。


昔辞書で「オーロラ」を引いたら「極光」って書いてあって、「極光」を引いたら「オーロラ」と書いてあった、あれを思い出したぜ。


しかし、家か……取り出してみて、こんなところに家が建っても困るしな。

巨岩の感じだと、大きさは実体化前に確認できるっけ。そのまま戻せるかどうかはわからないけれど、一応やってみるか。

と、サブスタしようとしてみたら……なんだこれ?


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 ハイム(天界) lv.1

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 所有者:カール=リフトハウス

 利用者:仲間 《選択》

 

 結界:アンチモンスター(D)

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いきなりリストが開く。

所有者、は俺だな。

利用者は……仲間って、また曖昧な。そういえば、マップ上で緑の点で表示されるのが仲間だっけ?

奴隷のふたりは問題ないだろうけれど、ハロルドさんは白だったような……お、緑になってら。パーティっぽく行動しているからかな。


結界は今のところ選択できないようだが、アンチモンスターってなんだろう。

字面はモンスターを寄せ付けなくなるっぽいけど。


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 結界:アンチモンスター(D)

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 一定以下の強さの魔物を寄せ付けなくなる結界。

 最大ランクは所有者のレベルに依存する。大まかにはレベル10でEランクを、lv.20でDランクを完全に排除できる。

 Cランク以上はレベルにかかわらず排除できない。最大ランク以下であれば、任意のランクを排除するように設定可能。

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へー。旨く使えば、Dランクの上位だけとかを選別するのにも使えそうなのか。ともあれ、これで実行、と。


サブスタすると、なんの脈絡もなく目の前に見慣れたものが現れた。

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