第32話 リンクとオイスターソースと新しい祝福
結局全部で5つの四つ葉を見つけたリーナは、ほくほく顔で馬車に乗り込み、お昼寝するのかと思ったら、ノエリアと一緒に、魔法の教習本で属性魔法スキルを得ようと練習を始めた。
ノエリアは、時々思い出したように御者席に出て、ハロルドさんの横で馬車の走らせ方を教えて貰ったり、サンルーフから顔を出して周りを見回し、シャドウランスを飛ばしたりしている。
常時討伐依頼を馬車の上からやってる感じだな。素材を拾えないのが玉に瑕だが、魔法の練習になるし、行きがけの駄賃には十分だろう。
空飛ぶ鷹とかの魔物をテイムして、首輪辺りをアイテムボックスにしてやれば、素材の回収も行えるんじゃないか? なんて妄想中。
テイムとかあるのかね。
俺はサリナ様に頂いた資料で代官の勉強中。
主要産業だとか、住民の傾向だとか、税率だとか、特産品だとか。
気候に、土地の状態に、水利に、開発状況に、まあ、いろいろ、いろいろ、知ることがあるのだ。
とはいえ、概要をなぞるだけで、後は腕輪にコピーして、認識でどうにかならないかなと考えている。頼りにしてるぜ。
「ご主人様?」
「ん? うわっ!?」
資料を読んでいた顔を上げると、目の前の内壁から、ノエリアの頭が生えている。ノ、ノエリアは? と左を見ると、椅子の背もたれに首を突っ込んでいた。なんだそれは?
「リンクです。面白いですね」
と笑ってる。
件の魔法書にあった、レベル2の空間魔法らしい。見えてる場所の空間をつなぐんだとかなんとか。心臓に悪い魔法だな。
んー? まてよ……空間を繋ぐ?
馬車は移動しているんだから馬車の壁に作られた接続した空間は、馬車の移動に合わせて動いているってことだよな? もし固定された空間を繋ぐ魔法なら、今頃ノエリアの頭は遥か後方に……ちょっとまて、この状態で空間の接続が無くなったら、ノエリアはどうなるんだ? なに、それ、怖い。
「それって、繋いでる間ずっと魔力を使うのか?」
「そうすることも出来ますが、一度に、多くの魔力を込めると、しばらくはそのままのようです」
「ふーん。でもそうしている間に効果が切れて、首がちょん切れちゃったりしたら怖いから、覗いている間は魔力で維持しておけよ」
「はい」
ともかく、動いている物体の表面を接続できるんだから、目の前の板AとBの表面を繋いで、片方だけ離れた見えない場所に持って行ったとしたら、それでもAとBは繋がったままになるんじゃないだろうか。
もしそうなら、通信機や2点間のワープドアとか、そんなものが出来るんじゃ? 盾の表面とどっかの空間を繋げば、どんな攻撃も無効化しちゃう盾とか、攻撃を反射する2枚の盾とか作れちゃうんじゃ? それって無敵の機能なんじゃ……レベル2ってことは、当然ランドニール様とやらも使えるんじゃないのか(だって街の魔法屋で売ってた魔法だし) なんで、そういうものが普及してないんだ??
ノエリアに買った魔法書によると、空間魔法の初級は、
lv.1 アイテムボックス
lv.2 リンク
lv.3 ショートジャンプ
らしい。最後のショートジャンプは、見えている範囲へ瞬間移動する魔法のようだ。
レベル2のリンクを利用したアイテムが、普及していない理由は、
1.ランドニール様とやらが、レベル1の空間魔法しか使えない。
2.1だと思わせるために普及させていない。
3.リンクに何かのペナルティや問題がある。
だろうか。
国家機密とか言ってたし、2のような気もするけれど……もしかしたら最初の前提が妄想なのかな。ちょっと実験してみるか。
俺は2枚のディナー皿を取り出した。
「ノエリア。このお皿とこのお皿の表面をリンクできるか? 普通に魔力を込めて、どのくらい込めたのかを覚えておいて」
「はい」
すっかり手慣れた感じで、リンクを発動させる。
「できました」
どうやらこれで、2枚のお皿の内側は繋がっているらしい。
おそるおそる、片方のお皿をのぞき込んだら、そこにはもう片方のお皿から見た馬車の天井が見えていた。
「ハロルドさん、ちょっと寄せて止まってください」
「はいよ」
俺は、片方の皿を持って、馬車から降りると、皿を見ながら馬車の前方に移動してみた。
「やっほー、見えますかー」
「ご主人様が、お皿の中に見えます、です!」
道の先にある緩やかなカーブを曲がると、馬車は完全に見えなくなったが、お皿の中には、のぞき込む3人の姿が見えていた。
「なんだよこりゃ、スゲェ皿だな」
なんてハロルドさんが変な感心をしている。
「ほら、何が見える?」
と言いながら、皿を赤い花の群れに向けると、お皿から
「赤いお花です」
と、興奮したリーナの声が聞こえてきた。
そう、皿から聞こえたのだ。
空間が繋がってるんだから、それはそこにあるのと同じってことだ。
300mほど先行してみても、まったく問題なく繋がったままのようだ。
どのくらい離れても大丈夫なのかとか、時間はどうなのかとか、調べたいことは色々あるが、とりあえず、こういう事ができると分かったのは大きな収穫だった。
「じゃ、馬車を進めて迎えに来てください」
と告げて、しばらくすると、馬車がやってきた。
いや、馬車はそんなに目立たないけど、クロが目立つな、こりゃ。
馬車に乗り込むと、テーブルの上に皿を置いて、いつまで繋がっているのかを確認してみることにした。
夕食の時間が近づいてもそのままだったので、腕輪の中で3600倍速にして、1秒ごとにチェックしたがいつまでも繋がっている。
結局741回目のチェックでリンクが解除された。
ふむ。さっき使った魔力で1ヶ月くらいは持つのか。
ふと思い立って、取り出した皿にチャージする要領で魔力を込めてみると、リンクが再確立した。これはもしかして、アイテムボックスと同様、リンクが付与された皿になってるんじゃ……
数日後にやってくるはずのカリフさんに鑑定して貰おうと決めて、2枚の皿をしまい込んだ。
◇ ---------------- ◇
「くっくっく、これが楽しみなんだよ、これが」
今日の晩ご飯は焼きうどんだ。
ハイムの中で調理するほうが便利なのだが、クロがいるので、キャンプよろしく外で食べることにした。
キャンプと言えば飯ごうとカレーだが、このあたりでは米はあまり食べられていないそうだ。
「大体はパンだな」
とハロルドさんが言っていたけれど、パンと何かのスープというのも、この爽やかな季節(どうやら春らしい)にぴんと来なかったので、焼きうどんにした。
焼きうどんもぴんと来ないって? それはそれ、これはこれだ。単に暇に飽かせて大量に打ってあったうどんが使いたかったとか、そんなことはちょっとしかない。
大きな鉄板を用意して竈の上にのせ、油を引いてオーク肉のスライスをたっぷり塩胡椒で炒める。野菜はバウンドで見つけておいた白菜っぽいのと
そこに茹でたうどんをどーんと投入。仕上げはオイスターソース(李○記って書いてあったよ orz)で広東風の焼きうどんだ。
オイスターソースの焦げる臭いがなんとも香ばしくって、リーナとハロルドさんが食い入るように見ている。
「どうぞ。適当にとって食べてかまいませんよ」
と、さらとフォークとトングを渡しておく。トングでよそって、フォークで食べる。俺は箸だけどな。
「はぐはぐはぐ。……んんめええええええ! なんだこのコクのあるソースは」
「ずるずるずる。それは、オイスターソースと言って……あー、貝の身のスープから作るんですよ」
「カイノミ……そんな魔物いたかな」
「違います。貝です。貝の身」
「おお、それだけでこんな旨くなるのか、すごいな」
「いや、それだけかどうかは……」
オイスターソースの作り方なんかしらんがな。
そのとき俺の後ろに巨大な気配がふくれあがる。はっと振り返るより早く、何かに頭をもしゃもしゃされていた。
「く、クロ?」
なにか言いたげな目線でリーナを見つめている。
「俺にも喰わせろと言っています、です」
「え?!ボク? 美味しくないよ? てか食べないで下さい」
「違う、それ、だそうです」
鉄板の上の焼きうどんを指さす。リーナ。
「う、馬にお肉とか食べさせて良いのかな。狂牛病とかあったしな……」
「あ、そいつ、馬じゃないぜ」
「は?」
ハロルドさんがこともなげに言う。
「いやいやいやいや、馬じゃなきゃなんなんですか」
「そいつはたぶん、バトルホースだな。言葉も多少は理解しているみたいだし」
そういえば、クロに認識を使ってなかったな。
--------
クロ (4) lv.8 (バトルホース)
HP:1,681/1,681
MP: 484/ 484
SP:32
言語理解 ■■□□□ □□□□□
--------
ほんとだ。バトルホースだ。というわけで肉もばくばく食う。
ハロルドさんの話によると、バトルホースは魔物だけれど旨く調教すると、最上級の軍馬として取り扱われるとかなんとか。
馴致の課程で、ある程度人間の言葉が分かるようになるとかで、言語理解を取得してるな。
しかし、なぜそんなものがあそこに……マリウスさんも謎の多い人だな。
しかたがないから、焼きうどんを食わせてやると、フンガーフンガーと鼻息を荒くしてバクバクくってる。
リーナによると、ものすごく喜んでいるそうだが……
「おまえ、食い過ぎだよ。あっという間になくなっちゃったじゃないか」
クロは悲しそうな目で鉄板を見つめている。
「って、もしかして、まだ食べるのか?」
ふんふんと、ものすごい勢いで首を縦に振る。
あきれながら、大量に残っているリンドブルムを取り出して、分厚くカットして、
「生で良いのか?」
と聞いてみたら、ふるふると首を横に振った。お前本当に魔物か? 立派な魔物なら、生で喰えよ、生で。
仕方がないので、そのまま鉄板で焼き始めたんだが、あー、リーナ君よだれたれてるよ、よだれ。
「はっ。あー、リーナもちょっと食べたいの、です」
「はいはい。ちょっとまってね」
「はい! なのです」
「あー、ハロルドもちょっと食べたいの、です」
と指をくわえてハロルドさんが言う。
「死ね」
「ひでぇ。ほら、宿に預けたリンドブルム、どうせ持ってけないからと、月陰亭の女将さんにあげちゃったんだよ。凄い喜んでたけどさ。だから喰わせろ」
「まあいいですけど、それ大丈夫でしょうかね。出所とか」
「聞かれたら秘蔵の肉だって言っとけ、とは言っておいたけど、こんなの出せっこないから自分家で喰うとよ」
なら平気か。
お、焼けたかな。
「ほら、これでいいか?」
クロは、ブンブンうなずきながら、お肉にかぶりついた。なんか涙目になってるぞ。そんなに旨いのか?
そのとき、いつもの通知音がポーンと鳴り響いた。
(カールの祝福をクロが受け入れました)
は?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます