第113話 事態の報告と発掘隊と新しい何かの発見
「それで? 調子に乗ってどんどん階層を降りていたと?」
迷宮騎士団団長、ダーイン=ホルムマリンが厳しい目つきで問いただしてくる。
「ええ、まあ。ダンジョン内にいる時間についてのルールはなかったと思いますが」
「確かに。しかし、大した荷物も持たず、そんな初心者装備で貴族の方がダンジョンに潜られたりしたら、やはり騒ぎになると思われませんか?」
まあ、確かにそうなんだけどね。ここは強気に出ておくか。
「日頃大魔の樹海で狩りをしている我々が、初心者ダンジョンでどうにかなると考える衛兵はコートロゼにはいませんでしたから」
ホルムマリン団長は青筋を立てたが、確かにそういうルールはない以上、上で空騒ぎしたに過ぎないことは認めざるを得ない。
「ふむ。それで、14階層まで降りた後、面倒くさくなって引き返してきたと」
「そうです。それより、1階層で起こった出来事の方を重要視して欲しいですね」
1階層に戻ってきた俺たちは、シンドール隊に保護されたが、その後何者かに襲われ、ガリバルディの種だと思われるアイテムによって、最下層に飛ばされた。
その際、騎士フォイナーレが刺殺され、騎士テンプは最下層でモンスターに飲み込まれた。
このこと自体は、一緒に戻ってきたシンドール隊長と、例の通路の向こうで隠れていたが、プリマヴェーラの終了と共に地上に返された騎士ヨシュアによって証言されている。
「それで、その男というのが……」
サラディン救世執行官であるシュルクという男だと、ハロルドさんが証言した。見たことがあるということにしたのだ。
「サラディン救世執行官ね。……あの組織はまだ存続しているのか?」
「はっ。形骸化しているということですが、組織そのものは存続しているようです」
ホルムマリンの問いかけに、副団長のラルフ=アンダーカイトが答える。
「そうか。
探るような目つきで俺たちを見つめてくる。
まあ、サンサに始まって王太子の晩餐会まで、結果として大主教とやらの邪魔をしまくってるみたいだから、あると言えばある。けどなぁ、そんな話、どうやって説明すればいいのさ。教会が何かを企んでいるなんて、大した証拠もなくぶち上げられるわけ無いだろ。
「いえ。とくには」
「……そうですか」
ホルムマリン団長は、ふーっとため息をつきながら椅子に深く座り直した。
「それで、最下層までとばされたので、ついでにボスを薙ぎ倒してプリマヴェーラを終了させたと言うことですか?」
「まあそうです」
「おかげで、今年のプリマヴェーラは歴代最短で終了してしまいました。稼ぐはずだった商人やギルドは泣いてましたよ」
「それはどうも」
俺は形式的に頭を下げたが、そんなこと知るかい。
「それでこれから、どうされるのです?」
「ギルドへ行ってもろもろを清算したら、後は休暇が終わるまで他のダンジョンに潜ってみようかとも思いましたが……まあ、休んだりブラブラしたりします」
「次は、目安の日にちを報告してからダンジョンへ潜って欲しいですな」
「善処します。ところで、お聞きしたいことが」
「なんでしょう?」
「ミーノータウロスって美味しいですか?」
◇ ---------------- ◇
聴取が終わった後、朝飯代わりの串焼きを囓りながら、ギルドへ向かって歩いている。
ミーノータウロスは美味いらしい。まあ、魔物の肉は魔力の強いというか濃いものほど美味いっていうしな。
「なあ、カール様」
「なんです?」
「シュルクの件、本当にあれでよかったのか?」
「いいんじゃないですか。どうせ捕まらないと思いますけど」
「まあなぁ。迷宮騎士団から教会に問い合わせがいった段階で、川に浮かぶか、山の中で人知れず魔物の餌になるか、そうでなければスラムあたりで発見されたりするんだろうな。死体で」
「やっぱりそんな感じですか」
「やっぱりそんな感じだ」
ふぅっと、ふたりでため息をつきながら、ギルドの扉を開けて入ると、その場の空気がざわめいて、一斉に注目を浴びてるような気がする。
なんだ?
「あれが……」
「……プリマヴェーラ……クリアしちゃった……」
「騒がせといてそれかよ」
なんか色々聞こえてくるな。そういやなんだか、すごい数の冒険者が探索に加わってたんだっけ? 一体誰が依頼を出してたんだ? やはり騎士団かな。
俺たちはそんな空気の中、受付カウンターに向かい、魔物の買い取りを依頼した。
「ミーノータウロスですか?」
「ええ、ちょっと普通のやつの3倍くらいあるので、それが取り出せるところを教えていただければ」
「3倍……わかりました。ではこちらへどうぞ」
と、ギルドの受付嬢が、空いている解体場へ案内してくれた。
◇ ---------------- ◇
「サヴィールに見せて貰った資料だと、この辺のはずなんだが……」
原典主義の研究者であるティベリウス=アエミリアヌスは、今、サンサの南、コートロゼへの道が長塁と交わるところから、長塁沿いに2カーメトルほど東へ進んだ場所にいた。
このあたりに出る魔物は、長塁の外側といえど、かなり強いため、エレストラとカリュアッドの2パーティが護衛として雇われていた。
「隊長! あれは!」
隊員のひとりが、所々に屹立している半メトルほどの岩を指さしている。それは確かに自然にできたと言うには少し違和感があった。
「インバークにあった塔のようなものの直径は、大体30メトルほどだったそうだ。あれらを結んでも10メトルくらいにしかなりそうにないが……ん?」
その場所に近づいていくと、明らかに地面の状態が変わった。
それまで土だった地面に、石畳のようなものが現れたのだ。
「まて」
カリュアッドのパーティの斥候が我々を下がらせて、その地面を調べていく。
「特に罠のようなものはなさそうだが、この石組みの足場は、あなた方が捜している直径30メトルの円と同じくらいの大きさがありそうだ。1/3は長塁の向こう側だが……」
と彼が長塁の方を目を細めて眺めた。
「じゃあこれが……」
土に埋もれた塔なのだろうか? 2000年前の?
足元の石を叩いてみても、結構な厚みがあるのか、その先が空洞かどうかわかるようなものではなかった。
「よし、とりあえず入り口らしきものがないか捜してみよう」
私は興奮を隠せず、ややうわずった様子で、隊員に声を掛けて調査を開始した。
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