第104話 地獄門?
§104 地獄門?
「で、カール様、どうするんだ? 降りてみるか?」
穴の入り口からのぞき込むと、細く狭い下りの道が反時計回りに続いていて、すぐ先で左へ消えている。
「まあ、ここまで来たらそうするしかありませんよね」
「だよな。じゃ、ここからは俺が先導するから」
なにしろ細くて狭い通路だけに、リーナが罠を踏んでも
そうして俺たちは永遠かと思える螺旋の闇に足を踏み入れたのだった。
少し降りると壁が捻れた木に変わり、リンボからの使者が案内に現れそうな雰囲気だ。
「なんだか気味の悪い空間だな」
まわりを見回しながら言葉少なにハロルドさんがつぶやく。通路が螺旋を描いているため、
木の表面は乾燥しているのに濡れたように輝いていて、時折ぎらりと煌めいていた。
「ううー。なんだか下のほうが気持ち悪いの、です」
リーナは顔をしかめながら、ひくひくと鼻を動かし下の方を気にしている。
「これ、一体どこまで続いてるんでしょう?」
「さあなぁ」
なんだか魔物の腹の中へ進んでいくようで、少々気が滅入ってくるな。
どのくらい進んだろうか。かなり長い間、螺旋を降り続けると、やがて、道の終わりに入り口のようなものがあった。
「まて」
ハロルドさんが皆を止めて、入り口のところで何かしている。罠だろうか。
「なんとも気味の悪いくらいちゃちな罠だな。まるでここに
「ずっと変な雰囲気が続いてたから、なんでもないことまで意味があるような気がするだけ……だといいんですけどね」
「まったくだ。ん? ここに、何か。『我を過ぐれば憂ひ』……『あり』?」
「は?」
「後はずっと掠れてるな。最期に、『この門を』……『くぐる』?……よく読めないな。『一切の』『を捨て』……」
おいおい。まさか神曲かよ。じゃ、この先は地獄? 大体どこの誰がそんな言葉を書いたんだ?
「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ、ですか?」
「ああ、そうだ。あったな、そんな聖句」
「聖句?」
「サイオンが魔王城の門をくぐるときにつぶやいた言葉らしいぜ。聖典に書かれている有名な一節で、勇者の物語にも出てくるな」
サイオンさん、地球人決定ですね。でなきゃおかしいだろ。
門というか、穴をくぐると、そこはだだっ広い部屋の中央だった。
今降りてきた階段が、ぐねぐねと古い大木のような質感の柱になっていて、そのまわりを低い石垣が円形に囲んでいる。
まわりには小さなアブのような虫が飛んでいて、隙あらば肌を刺そうと襲ってくる。ダメージはそれほどないが、ものすごく
ノエリアが小さなシャドウランスを飛ばして虫を退治していると、リーナがエアシールドでパーティ全体を覆ってくれた。
「おお。そういや、リーナの風魔法、初めて見たな」
「ふふーん、なのです」
鼻高々で胸を反らしている姿が可愛いぞ。
「しかし、こりゃ、3Fには見えないぜ?」
ハロルドさんはまわりを見回しながらそう言った。
円形?の広い空間とか、どう見てもボス部屋だよね。って、ことは4Fなのかな?
「ご主人様~。あっちは止めましょう。こっち、こっちに行きましょう」
リーナが俺の手を引っ張ってこの部屋へ入ってきた入り口の反対側に向かおうとする。入り口側に何かあるのか?
マップで確認すると、かなりの広さの円形の部屋で、丁度今出てきた方角――北だ――の端と、真反対の南の端に1つずつ出口?があるようだ。
ただ、北の出口の前に、オレンジ色のでっかいマークがあるんですが……
目をこらしてみると、闇の中に光を反射する爬虫類の鱗のようなものが見えたような気がした。
「
突然重苦しい声が聞こえてくる。
「誰だ!」
ハロルドさんが剣を構える。
「誰に身を
ハロルドさんが飛ばした
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ミーノース lv.41
HP:166,320/166,320
MP: 8,8395/ 8,8395
***
冥府の裁判官
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彼の足には太い鉄鎖のようなものがはめられていた。縛鎖の怨呪って、あれかな?
もしかして近づかなければ、スルーできるんじゃ……
「我を
巨人がゆっくりと上半身を起こし右腕を掲げると、亡霊の嘆きの声が響き渡り、巨人のまわりの土の中から亡者の群れが現れ始めた。
「いく、です!」
あ、こら、バカ、リーナ待て!
目にもとまらないスピードで飛び出したリーナが、亡者が立ち上がる前にミーノースを駆け上がり、掲げられた右腕にムラマサブレードを振り下ろした。
ミーノースの右腕は、切断された場所からずれて落ちかかったが、すぐにスローモーションで逆まわしの映像を見るように元に戻っていく。
切断した勢いで、向こう側まで走り抜けたリーナが、こちらに反転しながら、胴体を薙ぐと、2つになってずれた胴体が、また、同じように元に戻っていった。
「ううー、気持ち悪いの、です!」
といいながら、こちらまで駆け戻ってくる。
「なんだありゃ?」
ハロルドさんが目を丸くしている。
認識で見ていると、リーナが切った瞬間、14万くらいになったHPが、凄い勢いで最大値まで回復していた。
「オートヒールの凄いやつですかね」
「いや、凄いったって、限度があるだろ!」
MPはまったく減っていないので、回復魔法の類でもなさそうだ。あれをどうにかしないと、体力を奪う
「聖なる力、比類なき
ミーノースがそう言った瞬間、ノエリアがぴくんと動いたような気がした。
ノエリアは血の気の引いた顔でミーノースの方を見ていた。
「ノエリア?」
「あ、大丈夫です。ご主人様、ここは引かれた方が」
「嬢ちゃんの言うとおりだ! そこの穴に……」
「もーどーれーまーせーんー!です」
リーナが穴に飛び込もうとして、何かに阻まれている。
クロはひたすら近づいてくる亡者の群れに矢を射かけている。
「北は無理だ。南へ。ノエリア!」
「はい!」
ノエリアのシャドウランスが、南側のまだ少ない亡者を打ち抜いていく。
「いくぞ!」
「おう」
「ほらクロも」
「んっ」
俺たちは大あわてで南の出口を目指した。どうか、通過できますように!
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