第18話 冒険者登録とヤバい適性と覗き見のナルドール

「冒険者ギルドにようこそ」


素敵な感じの女性が、にこやかに話しかけてくる。スマイル0円ってやつですね。


「私は受付のセルヴァです。ご依頼ですか?」

「Bランク冒険者のハロルドさんを探しているのですが、見かけませんでしたか?」

「今日はまだお見かけしておりませんね。なにか困ってるの?」


子供が相手だから、少し砕けた、親身な感じで話してくれている。

いい人だな。


「あー、魔法の適性を知りたいのですが、どうしたらいいのか聞こうと思いまして」

「それだったら、冒険者ギルドに加入する時、希望があれば確認していますよ。登録料は銀貨5枚。他には、神殿でステータス全体の確認を行えば、調べることが出来るかな」


ステータス全体の確認は不味いな……冒険者か。


「冒険者登録に、何か制限はありますか?」

「そうね。普通は14歳になら成人しないとダメだけど、ランクC以上の冒険者の推薦があれば、多少の融通は利きますよ」


じゃあ、ハロルドさんに推薦して貰えば、リーナも登録はできるか。


「奴隷でも冒険者になれますか?」

「もちろんです」

「では彼女を登録して下さい。魔法の適性確認もお願いします」


と、ノエリアの方を見た。


「それから、途中でハロルドさんが来たら、カールが呼んでいるとお伝え下さい」

「かしこまりました。じゃ、こっちの部屋へ来てもらえるかな」


セルヴァさんに案内された部屋は、小さな正方形をしていて、6人掛けのテーブルと、ホワイトボードのようなものが置かれているだけで、余計な装飾類は何もなかった。会議室かな。


ノエリアは申し込み用紙に自分で書き込んでいる。細くてバランスのとれたノーブルな字だ。いったい何処で身につけたんだろう。


そうこうしているうちに、セルヴァさんが適性確認用だろうか、握り拳大くらいの水晶がついた器具を持ち込んできた。


「申込用紙は書けたかな?」

「はい」


と、ノエリアが羊皮紙を差し出す。


「確認させていただきます」


名前   :ノエリア

年齢   :17

種族   :人族

職    :ご主人様の奴隷

ポジション:ご主人様の側


「……あー、職というのは、剣士、とか、魔術師、とか、そういうのを書いて欲しいんだけど」

「奴隷です」


ノエリアが、にっこり笑いながらそう言った。


「あ、はい。では、空欄にしておきますね。あと、ポジションというのは、前衛とか後衛とか、そんな感じ「いつもご主人様のお側に」……わかりました。空欄にしておきます」


うーん。プロだ。


「慕われてるんだね」


とセルヴァさん。


「ええ、まあ……」


恥ずかしいような嬉しいような、フクザツな気分だ。


「ではこちらに血を一滴頂けるかな?」


血? DNAでも登録するんだろうか?


ノエリアが一滴血を垂らすと、1枚のカードが出てきた。


「それではこちらがギルドの身分証明書になります」


おお、あれが噂に名高いギルドカードってやつですかー? おいおいFって書いてあるよ!


「なくさないように気をつけてね」

「はい」


ノエリアがカードを差し出してくる。


「なに?」

「なくしちゃいけないものなので、預かっておいてください」

「身分証明を人に預けちゃだめだろ?」

「いつも一緒だから大丈夫ですよ?」


首をちょっとかしげながら、不思議そうにこっちをみるノエリア。

わかりましたよ、お預かりしておきますよ。


「では魔力の適性を調べましょうね。この水晶に魔力を込めてみて」

「はい」


ノエリアが水晶に手を添えて目を閉じる。

透明な水晶に色がつき始めて……球の右半分が白く輝き、左半分が黒く沈んだ。境界部分には、赤、黄、青、茶のリングが挟まっている。綺麗だけど、これは? とセルヴァさんを見ると、彼女は口を開けたまま唖然としていた。


あ、これダメなやつや。


「あの……」


おそるおそる声を掛けてみると、突然我に返ったセルヴァさんが、


「あ、あ、ちょおーっとお待ち下さい!」


と言って部屋を出て行こうとしたので、慌てて引き留めた。


「いえ、結果だけ教えていただければ」

「し、白は聖魔法、黒は闇魔法の適性です。さらに、赤は炎、黄色は風、青は水、茶は土の適性になります」

「え、じゃ、ノエリアにはそれ全部の適性があるってことですか?」

「と、とくに聖と闇が優れていらっしゃるようです」

「ありがとうございました!」


面倒毎に巻き込まれる前に、脱出だ!


部屋のドアを素早く開けて飛び出すと、目の前にでかい壁が。


「わぷっ」

「おっとすまねぇ。ってカールじゃないか。何か用だって?」


ハロルドさんが立ってた。


  ◇ ---------------- ◇


「ようするに、冒険者として登録したいけど、年齢が足りないから保証人になってほしいと、そういうことか?」

「はあ、まあそのようなものです」

「……まあおまえらの実力はよく分かってるし、いいけどよ。それはともかく、あれ、なんなんだよ?」


ハロルドさんが指さした先には、細面で優男風のおじさまが某ゲンドウポーズで、こちらを見ながらニコニコしている。ほら、口元で手を組むあれですよ。


「……こええんだけど」

「こちらは当ギルドのサブマスターです」


彼を急いで連れてきたセルヴァさんが、サブマスターの側に立ってそう説明する。


「知ってるよ。ってか、何でおまえがそこでニコニコキモい笑みを浮かべてんだよ」

「キモいは酷いな、ハロルド君。私はナルドール=サンジェルマン。バウンド冒険者ギルドの副長をつとめさせていただいている」


ナルドールさんがこちらをみて自己紹介してきた。どうやら、ハロルドさんとはよく知った仲のようだ。


「はぁ、よろしくおねがいします」


「ハロルド君とは知り合いのようだが?」

「ええ、まあ、いろいろありまして」


「いかん、いかんな、ハロルド君」

「なにがだよ」

「有力な冒険者の情報を報告しないなんて、国家の損失、ひいては反逆とも言えるのだよ?」


「なにアブねーこと言ってんだよ! そもそもそいつら、冒険者ですらねーだろ」

「おう。そうだった。早速だが、冒険者登録を行っていただけるとか?」

「ええ、まあ、出来るのでしたら、登録しておこうかな、と」

「もちろん。もちろん可能だとも」


「私は10歳ですけど……」

「何の問題も無いとも。なんなら私が推薦しようか?」

「いえ、それには及びません!」

「おおう、つれないね。ではハロルド君が保証人で良いんだね?」

「ああ、そうしてくれ」


さっきと同じ手続きが繰り返され、俺とリーナも登録された。


「冒険者は気楽な商売だよ。詳しい説明はそこに」


と、小冊子を渡される。


その後セルヴァさんが要点だけ説明してくれたところによると、税金は年にF-Dは銀貨5枚。それ以上は金貨1枚だそうだ。


また、F-Eの間は、最低でも月に1度は依頼をこなす必要があり、そうしなければ資格を失う。Dは3ヶ月に1度、C以上に特に制限はないが、年に1つくらいはこなして欲しいとのこと。資格を失うと、1年間は再登録できないらしい。


C以上になると、国家の危機対策を念頭においた強制徴集という制度が存在するが、罰金を払うか冒険者を廃業することで徴集を回避することが出来る。ただし、廃業して徴集を回避した場合、10年間は再登録不可になるだそうだ。


ふーん。どうなるか分からないし、さっさとDかCに上げて置いた方が無難だな。しかしC以上の強制徴集はなぁ……


「ハロルドさん、ありがとうございました。おかげでスムーズに手続きできました」

「……いや、保証登録制度を利用した場合、普通はもっと面倒くせー手続きが色々とあるんだよ」

「と、言いますと?」

「今回は、おまえらのステータスが飛びぬけてたのが原因さ」

「は?」

「あいつは『覗き見のナルドール』ってな、真偽官以上にレアな『鑑定の魔眼』持ちなんだ」


鑑定?!


 --------

 ナルドール=サンジェルマン (32) lv.30 (人族)

 HP:464/464

 MP:582/675

 

 鑑定の魔眼

 

 風魔法 ■■■■■ ■■□□□

 

 バウンド冒険者ギルドサブマスター

 --------


本当だ。しかし……


「人のスキル、しゃべっちゃっていいんですか?」

「いいんだよ。滅茶苦茶有名な話で、隠すようなもんじゃないんだ」


「御年10歳にして、レベル12とは恐れ入る。将来が楽しみですな」

「……な? ああやって、自分からアピールしまくってるんだ」

「はあ」


でもレベル12って、間違ってるけど……あ、ステータス擬装が効いてるのか。よかったー。今朝気がついて、本当によかったー。


「それよりも、その奴隷はすごいですな。17歳と13歳で共にレベル20、しかも聖魔法の使い手とは。一体どういう育て方をしたら、そのようなレベルに育つというのですか。実に興味深い」


そうか、この世界には目に見えるHPとかMPとかの概念自体がないんだ。だから、見えてるのはレベルと後は――?


「鑑定の魔眼って、一体何が見えるんです?」


こっそりとハロルドさんに聞いてみた。


「さあな。大抵はレベルとスキル、それにスキルの樹練度が漠然と上中下くらいにわかるらしいが……」


それでも十分やっかいだな。


「のぞき見は良い趣味とはいえませんね」

「くっくっく、しかし見えてしまうものは仕方がないでしょう? せいぜい利用させていただいていますよ」


「まあ、俺の知る限り、得た情報をおおっぴらにしたことは無いはずだから、そこは心配しなくて大丈夫だ」

「はぁ」

「裏でその情報をどうしているかは知らんがな」

「ええー?!」


「人聞きの悪いことを言わないでくれたまえ。私は常に、国家とギルドに忠誠を誓っているよ」

「だからたちが悪いんじゃねーか」


ハロルドさん、それめっちゃ不安になりますって。

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