第28話 奴隷解放?と空間魔法の秘密とノエリアの死(x2)
「あら、いらっしゃい、カール君」
にっこり笑いながら、セルヴァさんが、こちらに話しかけてくる。
昼が過ぎてしばらくした、ギルドが一番閑そうな時間なんだけど、パラパラいる冒険者から鋭い視線が飛んできた。
「あれか?」
「らしいぞ」
「あんなガキがどうやって?」
「侍らしてる奴隷女がスゲーのかもよ?」
「いやいや、あいつらだって、まだ駆け出しだろ?」
「スゲー美女なのは確かだけどな」
ひそひそ話が聞こえてくる。
セルヴァさんが親しそうだからかと思ったら、昨日の件か。もう知られてるんだ。
「どうしたの?」
「あ、いや。明日ちょっと1日ヒマになったので、何か適当な依頼があればと思いまして」
「そうねー。討伐が良いんだっけ?」
「Dランクの採取なんてあるんですか?」
「あるわよー。一角兎の角を獲ってくるとか……あ、結局討伐とかわらないか」
セルヴァさんが、てへっといった感じに舌を出して笑っている。こっちが素なのかな。
「1日でできる依頼で、近場だと、やっぱり黒の峡谷周辺の常時討伐依頼がいいんじゃないかしら。カール君、でたらめだし」
「いや、そんなことはないですけど……じゃ、無難にパトロールしてきます」
「はい。気をつけてくださいねっ」
「ありがとうございます」
あ、ノエリアとリーナのカードの更新を忘れてた。
まあ、いつでもいいか。
◇ ---------------- ◇
「なあ、リーナ」
「はい、です?」
「騒ぎも大分落ち着いたし、そろそろ奴隷から解放しようと思うんだけど」
「ご、ご主人様……」
ガーンといった書き文字が見えるくらいうろたえたリーナが、いきなり涙目になって、
「リ、リーナはもういりませんか?」
ふるふる品柄そう言いだした。
「は?」
「リーナは、リーナは、もっとお役に立ちますですから……」
「ま、まて。なにか勘違いしてるぞ」
奴隷じゃなくなっても単に自由にして良くなるだけで、そう望むならこのまま一緒にいても良いんだということを説明するのに、こんなに手間取るとは思わなかった。奴隷じゃなくなる=絆が切れるなんて発想、どっから出てくるんだ。
しかし、結局リーナからは、もしお側に置いておいていただけるなら、しばらくは奴隷のままいさせて欲しいとお願いされた。
アル・デラミス王国には、獣人を忌避する地域も多いらしく、自由民だと露骨に迫害を受けたりするのだそうだ。そういえば奴隷ですら酷く辛くあたる店員とかいたな。
「ノエリアは?」
「……そうですね」
と、少しだけ考えていたけれど、すぐに、後ろから俺の首に両手を回してきゅっと抱きしめてくる。こうすると後頭部が丁度2つの軟らかな丘に埋もれて……あー、のぼせそう。
「まだしばらくは、奴隷としてお側に置いていただければ……」
は、はひ。さからえませぬ。この攻撃には。
もっとも、超高額で買われたすぐ後で、購入者が死亡。その後。他人によって解放されたりしたら、いろいろと憶測が飛び交いそうではあるけどさ。
◇ ---------------- ◇
特にやることもないし、少し早いけれど宿へ帰ってハイムに籠もる。早速ノエリアに、指輪をアイテムボックス化して貰おう。
「良いかい、ノエリア。今度は、アイテムボックス内の時間をできるだけ遅くなるように調整するんだ」
「はい」
「魔力は、もう込められるだけ込めちゃって良いから。ノエリアの分は回復させてからやろう」
「はいっ」
ノエリアはは自分のリングに集中して力を込めていく。小物袋は最後に一瞬光っただけだけど、今度の指輪は、徐々に青白く強い光に包まれていく。これ、大丈夫か? 指輪が消し飛んだりしない、よね?
「……アイテムボックス」
最後に呪文をつぶやいた瞬間、何かが切れる音がして、ノエリアが机に倒れ伏した。
「ノエリア!?」
--------
ノエリア (17) lv.26 (人族)
HP:1/ 4,860
MP:8/10,968
--------
ノエリアのHPが1しかない。
「リーナ! ノエリアにヒールを!!」
「はい、です!」
◇ ---------------- ◇
「大丈夫か?」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
「何にも迷惑なんてことはないけれど、一体何があったんだ?」
「分かりません。ほぼ全部の魔力を込めて魔法が発動した瞬間、意識がなくなったみたいです。魔力の使いすぎでしょうか」
魔力が0になっても人は死なない。しかしノエリアの腕にまかれていた救命のフィタは、ものの見事に切れていた。つまりは一度命を失ったってことだ。
これはもう実験してみるしかないな。念のために残った救命のフィタをノエリアの右手に結びなおし、先日買っておいた皮の袋にアイテムボックスを付与するように指示した。ただし、昨日の小袋に掛けたように、魔力は少しだけ使うように強く言っておいた。
MPはMP共有で静かに元に戻した。なんだか温かな水を注がれているみたいで気持ちいいらしい。
「気をつけてな」
「はい」
「……っ。アイテムボックス」
しばらくした後、ノエリアが小さく呪文をつぶやくと、革袋が微かに発光して消えた。
--------
ノエリア (17) lv.26 (人族)
HP: 4,258/ 4,858
MP:10,368/10,968
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これは……つまり空間魔法は、使用したMPと同じ量のHPを削る魔法だったってことか。しかしこんなことが一般に知れ渡ったら、抑止力にならないんじゃないだろうか。
だって、強力な空間魔法を使うと、特別なアイテムで守られていない限り、使用者は死んじゃうんだぜ?
いや、もしかしたら、アイテムボックスの呪文だけかもしれないけどさ。
「もう一つの指輪だけど」
「ご主人様」
「ん?」
「もう一度、紐を使って全力でやらせてください」
「いや、しかし……」
「加減してやろうとしても、まだ魔力をどの程度つぎ込むのかという感覚が良くつかめません」
そうか、普通は数値で見えてるわけじゃないから、その辺を感覚に頼ることになるのか。
「もしぎりぎりで越えてしまったら、どうせ紐はダメになってしまいます。ですから、ここは全力でやって、その後他のアイテムで少しずつ練習して慣れようと思うのです」
しかし、もし、救命のフィタが発動しなかったら……
「ご主人様」
「わかった。だけどこれが終わったら二度と無茶はするなよ」
「はい」
そうして同じことが繰り返された。今度はリーナにもスタンバって貰っていたから、アイテムボックスが発動すると同時にヒールが掛けられたけれど、ヒールの効果発動中に、やはりフィタが切れてしまった。
切れた後は、効果発動終了までHPが回復していたから、空間魔法によるHPの消費量にヒールが追いつけなかったと考えるべきだろう。
もっと強力な回復魔法があれば、死なずに使えるようになるのかも知れないけれど、何度も試す気にはならないな、これは。
ほとんど真っ白に輝いた指輪が、徐々に冷えていくように元の指輪へと戻ったころ。
「ご主人様、お役に立てましたか?」
お前、2回も死にかけた、いや死んだんだぞ。まったく。
「凄くたったよ。でも念のために、これはノエリアがつけておいて欲しい」
と俺は自分の右手のフィタをはずして、彼女の右手に結んであげた。
「いけません、これはご主人様の……」
「これは命令だよ」
「……ありがとうございます」
それを見ていたリーナが、ぐっと右手を突き出してくる。自分の分をつかえってことだろう。
「リーナにも死なれたら困るから、今はつけておいて。命令だよ」
「わかりました、です」
しかし、結局10,000オーバーの魔力をつぎ込んだことになるわけで。一体どんな性能になっているのか、ちょっと怖い気もするな。
今後はリーナにも、魔法を覚えさせたいけど、魔法スキルってどうやって取るんだろう。
ハロルドさんは空間魔法ってなにをさせればいいのか分からないっていってたけど、他の魔法も十分わからないよな。
お金にもまだ多少の余裕があるから、魔法の教本と、各種属性魔法の初級編を買ってやろう。空間魔法の本は……流石にないかもな。
俺は、このときしでかした重大な見落としを、後でものすごく後悔することになった。
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