第78話 非常識と農地開発の波紋とノーフォークもどき

結果から言うと、大騒ぎになってました orz...


タイラー君は期待通りに自分が聞いた話を諸先輩方に話したらしく、ザンジバラード発の『代官様がまたやらかした』という話は、俺たちが起きる頃には、あまねくコートロゼ中に拡がっていたのだった。

やらかしたってなんだよ、やらかしたって。


コートロゼの東側が、カーテナ川の川縁かわべりまで、いきなり安全になったってこともあって、大勢の見物客が壁の向こうの畑を眺めに街を出てきたそうだが、何を見るって言うんだよ、ただの畑だろ。


コートロゼでも比較的レベルの低い冒険者は、「お、俺の狩り場は?」なんて言ってがっくりしていたらしいが、南も西も、北側にだって数百メートルくらいはあるだろ!


大剣を背負った大柄な女が、畑を指さして、「代官がー、また、代官がー」と言いながら腹を抱えて大笑いしていたという話を聞いて、ハロルドさんが、そりゃエレストラだなと教えてくれた。

断罪のエレストラの2つ名を持つ、コートロゼでも一流の冒険者らしい。断罪って、こえーな。


ダイバとダルハーンは、もし上に知られて尋ねられたら、あれをどうやって作ったと言えば良いんですか?! なんて頭を抱えていたが、頑張って開墾しましたって言っておけばいいだろ。開墾された土地自体には興味があっても、どうやって開墾したかなんて、上層部は興味ないはず。

だいたい正直に一晩で開墾したなんて話しても、、信じないって。


コートロゼのほぼ全員が証人になりますけど、とジト目で見られたが、そんなの調べに来る奴はいないって。たぶん。


  ◇ ---------------- ◇


こ、これは……


昨日までは確かに樹海だったその場所に立って、ヒョードルは愕然としていた。


これはもはや、建築方法がデタラメとか言うレベルではないぞ。

もし一晩でこんなことができるというのなら、一期(4ヶ月)もあれば大魔の樹海の、カーテナより西側をすべて耕作地にすることすら可能ではないのか?


開墾の話だけではない。ここに大量に生息していた凶悪な魔物達は、いったいどうなったんだ?


同じことをやろうとするなら、木材を全部カーテナに流したとしても、木こりが500人、その木を運ぶものが数千人は必要だ。

さらに、魔物を退治するために兵が1000人規模で必要であることは間違いない。

土地を開墾するのに、人力では何万人もの人が必要になるはずだし、一晩でとなると、最低でも優秀な土魔法使いが100人はいる。

それらを支える兵站の人数も相当数にのぼるだろう……


あまりの驚きに素に戻っていたヒョードルは、気を取り直して考えた。


もっとも、優秀な土魔法使いを100人集めることなどできはせぬ。だからこそ、コートロゼの開拓は、未だに進んでおらんのじゃ。

そもそも物量を投入した、力押しごときで何とかなるというのなら、2000年以上も長塁の南側が開発されていないはずがないではないか。


そして、ふとサリナが言った言葉を思い出した。


『そこで会ったあの子は、確かにカールでしたが、カールではない何かのようでもありました』


サリナよ。あんたの言わんとしていたことが、だんだん身に染みてきたぞ。


『魅入られないでくださいよ。あなたもお若くないのですから』


残念ながら、それは手遅れかもしれん。


  ◇ ---------------- ◇


「なんともはや、言葉がありませんね」

「まあまあ、そこは、農地ができたことを喜びましょうよ。神さまの贈り物だとでも思って」

「神さまの贈り物ですか……」


あきれるシセロさんと一緒に農地を歩きながら、今後の打ち合わせをしていた。


「それで、まずは雇用形態なんですが……」


絶対条件として、この農地は領主の所有だ。つまり今のところ代官である俺の所有だ。先のことはともかくいまはそうであるのだ。


あとは、1000メトルx100メトルを1列として、4列を1グループにしたいこと。農民を3グループに分けて、それぞれのグループを担当させたいこと。

働く人には能力に応じて賃金を支払い、収穫物は全て領主のものだが、収穫によっては追加の賃金を支払うこと。


「それで問題ないとは思いますが、作物の出来が悪くても減収にならないなら、手入れがいい加減になったり、工夫をしなくなったりしませんか?」


とシセロが心配する。

それはもっともなんだけどね。だけど、収穫があるまで収入がなかったら死んじゃうだろ、農民。だから――


「そんなやつは雇うな」


と言っておいた。


「なるほど」


「それで、1グループに何人くらいの人が必要ですかね?」

「1000メトルx400メトルですからね……」


「あ、実際は、こんな感じで栽培する予定ですから」


普通のノーフォークをここの暦(1年が4期:春夏秋冬、1期が4月、1月が21日)&栽培時期&4年周期で考えると、クローバー(三)から小麦(秋)までの間隔が1年近く空いてしまう。

そこで大豆っぽい豆がないか探してもらったら、そのものずばりのオオ豆というものがあったので、それを挿入したものが、次のローテーションだ。


秋(小麦)

春(大麦・春まき小麦など)

三(クローバー)

蕪(カブ)

豆(オオ豆)

*(空き地)


月 ⅠⅡⅢⅣ

-- --------

01 三*秋*

02 三*秋春

03 三豆秋春

04 三豆秋春

05 三豆秋春

06 三豆*春

07 三豆*春

08 三豆*春

09 *豆*春

10 **蕪*

11 *秋蕪*

12 *秋蕪*

13 *秋蕪*

14 *秋**

15 *秋**

16 *秋**

01 *秋*三

02 *秋春三

03 豆秋春三

04 豆秋春三

05 豆秋春三

06 豆*春三

07 豆*春三

08 豆*春三

09 豆*春*

10 *蕪**

11 秋蕪**

12 秋蕪**

13 秋蕪**

14 秋***

15 秋***

16 秋***

01 秋*三*

02 秋春三*

03 秋春三豆

04 秋春三豆

05 秋春三豆

06 *春三豆

07 *春三豆

08 *春三豆

09 *春*豆

10 蕪***

11 蕪**秋

12 蕪**秋

13 蕪**秋

14 ***秋

15 ***秋

16 ***秋

01 *三*秋

02 春三*秋

03 春三豆秋

04 春三豆秋

05 春三豆秋

06 春三豆*

07 春三豆*

08 春三豆*

09 春*豆*

10 ***蕪

11 **秋蕪

12 **秋蕪

13 **秋蕪

14 **秋*

15 **秋*

16 **秋*


「結構畑が空いている時期がありますね」

「そこで地力を自然が回復させるんですよ。ただしこれは今のところ2グループだけにやらせようと思います」

「あとの1グループはどうするんです?」

「まあ、ちょっとした実験に使いますから、今は空けておいて下さい。それに実験の結果次第では、2グループのスケジュールも変更しますから」

「わかりました」


概要は伝えたので、シセロに北側の2グループ(8本)をまかせることにした。役所で希望者を募って、適切に人を配分してくれるだろう。

シセロはおまかせ下さいとうなずいて、役所に帰っていった。



シセロが見えなくなるとすぐ、


「カール様、なんで南側の4本を空けておいたんだ?」


とハロルドさんが聞いてきた。


「実験したいことがあるんですよ」


1.さっき指示した農法がうまくいくかどうかを調べる。

2.魔法を使った連作スケジュールでの結果を調べる。

3.肥料を使った連作スケジュールでの結果を調べる。

4.品種改良につかう。


「というわけです」

「それって、凄い時間がかかるんじゃねぇの?」

「そこは、それ、いろいろと工夫の余地が」

「……また夜中か?」

「……また夜中です」


ハロルドさんは、「ああ、もう徹夜が癖になっちゃうだろうが」なんて、変な嘆きかたをしていた。


  ◇ ---------------- ◇


夕方遅い時間に、カリフさんが顔を出して、明日には王都に着きますから、そうしたら、ちょっと行ってみませんかと誘いに来たので、手が空いたら行くと約束した。


「そうだ、カリフさん。大魔の樹海の木材って売れませんかね?」

「なかなか高額で売れますよ。金貨10枚~50枚くらいでしょうか」


100万~500万か。凄いな。1万本あれば、最低でも星金貨10枚分かよ。

現代の杉は立方メートル当たり2500円(立木)とかだったもんな。50年ものの杉が1本2000円以下で買えるというのは、もう無茶苦茶だよ。丸太でも80年級のΦ0.6m×4mが1万5千円程度とか、林業は売れば売るほど赤字状態。補助なくしては立ちゆかないというのもよく分かる。てか、なんでこんな値段なんだろう。


閑話休題。


大魔の樹海の木材は、そもそも伐採されること自体がまれなので、希少性も高いし、非常に密度が高く、硬くて強いので、舟材や建材から家具の材料にまで使われ、引く手あまただと言うことだ。

中でも最高級の馬車材として高く取引されているとのこと。


「しかし、伐採は大変ですよ?」

「いえ、すでに伐採は終わっています。畑を作る時の副産物ですね」

「え? あの畑は魔法で作られたのですよね?」


カリフさんによると、開墾リクレイムなどをつかって開墾されると、そこにある樹木などは土の中に栄養素として再構成されてしまうのだとか。そういや、切り株や岩はそうなってたな。


「ああ、実は、伐採してから魔法を使ったのです」

「伐採した?! あの大木を、ですか?」

「ええ、まあ」

「本職の木こりが伐採しても、1本切るのに最低10分はかかると思いますよ? 私はてっきり非常識な魔法で開墾されたものとばかり……」


非常識って……

リーナが切ると1秒もかからないし、アイテムボックスへその場で収納できちゃうから運ぶ手間もいらないし。

……魔法じゃなくても非常識な気がしてきた。


「いずれにしても、凄いことをやられましたなぁ」


いや、そんな苦笑ぎみに言われても。


「しかし、そんなに高く売れるんなら、魔物の討伐に行かないで、街の近場で木を切ってたほうが儲かるんじゃないですかね?」

「運べるのなら、そうかもしれませんね」


ああ、そうか。直径2mで高さ50mだとしても、普通は運びようがないのか。

切り倒すこと自体が大変な上に、仮に切り倒すことができたとしても、その場で枝を伐採したり、運べる程度の丸太に加工したりしている間に、魔物に襲われるだろうしな。


「そんなことができる冒険者でしたら、もっと奥地で稀少な素材を狩った方が儲かりますよ」


なるほどね。


「それで何本くらいおありなのですか?」

「えーっと、枝を払っていない50メトルくらいの木が……一万本くらいですかね」

「は?」


1000m x 1200m の領域を伐採したんだから、1本が10m x 10mの領域を占めていたとしても、1万2千本だ。


「もうちょっとあるかも知れませんが」

「……その木はどこに?」


ああそうか。太さが数mで長さが50m以上ある木を1万本以上格納するって、どんだけってことか。


「まあ、いくつかに分けまして、アイテムボックスにしまってあります」

「……わかりました。うちではそんなに大量に木材をさばくことはできませんから、いくらかずつまとめて材木商におろしてみましょう」


一度に放出すると値崩れしますから、徐々に卸すことにしましょう、とカリフさんが提案してきた。


「お願いします。そうだ、マリウスさんにもいくつか渡しておきますか」

「それは、いいですな。うちの馬車にも使わせましょう」


サンプルストーンの no.0 なら 頭を10mくらいカットして長さを揃えれば100本くらいは入るだろうから、あれを使ってもらうという手もあるだろう。そのための処理は流通拠点センターでやればいいか。


「そうだ。ここら辺で使ってる春秋まきの麦の種子とオオ豆とカブの種を仕入れておいていただけませんか」

「いいですとも。どのくらい必要ですか?」


そうだな……


「100メトルx100メトルにまけるくらいを4セットお願いします」

「かしこまりました」


さて、忙しくなってきましたよ!

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