第57話 街作りと迷える仔羊と使徒のお仕事
まあそれから数日間、結構いろいろと頑張ったわけですよ。
あ、夜中になんかやるのなら、あらかじめ予定を知らせとけと、サイラスに散々怒られました。ホウレンソウは大切ですね。ただまあ人目を忍ぶ行動だからなぁ……
あの後も、リーナとノエリアとハロルドさんの4人で夜中に下水道を延々掘り続けたのは、中々
そのかいあって、下水道自体はほぼ完成。下流の浄化槽にピューリファイと
吸魔の像を調べて魔力を集めるしくみを解析できたら、タブレットの変わりにそれを設置することで、いつまでも勝手に動いて便利だろうなーと思ったが、専門家でもないし、魔物が集まってきたらいやなのでとりあえず保留した。
求むマッドサイエンティスト。いや、マッドじゃなくてもいいんだけれど。
公共事業は、そこそこ順調に進んでいる。
とりあえず「スーパー・カリフ」と名付けたお店を中央にオープンして、最初はカリフさんがコートロゼに持ってきてくれた食料品を中心に販売している。
カリフさんが、何ですその名前は?と聞いてきたから、食料品や生活雑貨を中心にいろんな物が売られている総合商店をスーパーというんだと説明しておいた。
「いや、そうじゃなくって、スーパー・エンポロスにして下さいよ」
「うーん。エンポロス商会には感謝しているけれど、ボクの御用商人はカリフさんなんだから、やっぱ、スーパー・カリフでいいんだよ」
「そ、そうですか」
ちょっとカリフさんが照れてたのを、俺は見逃さないゾ。
そのまま販売すると、教会がごっそり買い占めていく恐れがあったので、炊き出しをやっている間に、住民登録を行って住民カードを発行し、そのカードを持っている人だけが買い物できる仕組みにした。
流通拠点が完成したら、いくらでも買い占めて貰って構わないので、しばらくの間だけの暫定的措置だと言ってある。会員カードみたいなものだ。
将来的には、このカードで税金も徴収しちゃうもんね。うひひひひ。という野望もあるのだ。マイナンバーだ。
価格は、いつものコートロゼで販売されていた価格より、少し安めに設定してある。運送費がほとんどいらなかったからこその強気の価格設定だ。
現在コートロゼには肉以外の食料品を販売して生計を立てている商店はないので、こちらも問題はないだろう。
流通網が完成すれば、それで儲けが出る価格で卸してあげればいいだけだしね。
住民のまとめ役みたいな役割になっているシセロと、建築が専門のファルコという男をあつめて、街区の設計を渡しておいた。
とはいえ、孤児院と独居老人用の施設、学校と病院と役所、それに大区画にひとつずつ配置した交番や、大まかな商業区/歓楽街/住宅街などの割り付けが行われているだけのもので、予定があるところに家を建てるなってくらいのものだ。
さらに、ファルコには上水道の予定と、すでにある下水道、さらにそこに接続するための規格についても説明しておいた。これでお家の中にトイレがつくれるからね。
「しかし、これは、王都以上に進んだ設計ですね」
とファルコがしきりに感心している。
「これから南に更に広げて、広大な農地も開発予定ですし、あらかじめスケーラブルに設計しておかないと、すぐ人口増加について行けなくなって、破綻しますからね」
などと適当なことを言ってるのに、うんうんとうなずかれている。困った。
「施設は住民の住居を優先して作成して下さい。特に小さなお子さんがいる家庭などを優先していただけると助かります」
「はい」
「それと、石材や木材は充分用意してありますが、そのほかに何か必要になった場合は、領主館か、スーパー・カリフへ伝えて下さい」
「わかりました。ありがとうございます」
彼らが帰っていった方向から、「俺たちの街は俺たちで作んだー、おー」みたいなかけ声が聞こえてくる。うんうん。士気が高いのは良いことだね。
リーナとノエリアは、ぽこぽこ仮設住宅を魔法で建てて、テントで生活している人を入居させていった。
魔法で簡単に建てる家は、ディテールがあまりないけれど、テント生活に比べればずっとマシなので、病気になる人も減るだろうと思う。
住宅が建った人が住んでいた仮設住宅は取り壊されて住宅用の素材になっているようだ。
しかし、流石辺境、どんな事柄にも、大体何人かは専門家がいるんだね。
結局俺たちは、住民の要望に応じて、例えばパン屋さんのお店が出来るまでパンを焼いたり、仮設住宅向けに共同のカマドや水場やトイレを作ったりする位で、他には特にやることが無くなってしまったのだ。
やる気になった住民パワー、すごいな。
◇ ---------------- ◇
「なんてすごい」
数日前まで死んだような目をして横たわっていた人たちが、凄いエネルギーで街を作り上げていってます。
「おっと、あんた、ぼーっとしてると邪魔だよ!」
「あ、すみません」
「その服、あんた、教会の?」
助祭服を着て歩いていると、時折冷たい態度を取られたりしますが、大抵は亜人の方ですし、教会が亜人の方にしたことを考えれば仕方ないとは思います。
でも今日はちょっと執拗でした。
教会が食料を信者の人族の方にしか回していないとか、いろいろとあったようですが、ごめんなさい。私にはどうにもできないんです。
ごめんなさい。ごめんなさい。私は、私は……ああ、私も代官様のように皆さんのお力になりたかったな……教会はみんなを幸せにしてくれると思っていたのに、どうして、こうなっちゃうんだろう。
「その辺にしておきなよ」
後少しで泣きそうになってた私の後ろから、子供の声が聞こえてきました。
え? 誰?
「なんでだよ。俺たちが教会にどんな仕打ちを「彼女に受けたのか?」」
「なんだと?」
「彼女に酷い仕打ちを受けたのか?」
「……いや」
「だろ? 酷い仕打ちをしたやつを恨むのは仕方ないが、そうでないやつまで一括りにするのは、良心的な人に向かって盗賊がいるからお前は悪だって言ってるようなものだろ?」
「む……たしかにそうだ。すまなかった」
「い、いいえ。私もみなさんがお困りの時、何も出来ませんでしたし」
「そりゃ、しかたないでしょう」
私は振り返って、その人を見た。
「助祭は
それが、私が、カール様に初めて出会った瞬間だった。
「それじゃ、行きましょうか」
「え?」
「何か迷ってるんでしょう? 話くらいなら聞いてあげられますよ」
◇ ---------------- ◇
蜘蛛の糸のように細いアッシュブロンドの少女が、少し後ろをついてくる。
リーナはザンジバラード警備保障の訓練に教官として参加しているらしい。あんなトラブルがあった割に気に入られたものだが、どう考えても教官には向かないと思うけどなぁ……どうなってんだか。
ノエリアはお屋敷のお仕事と、なんだかスコヴィルさんと一緒に魔物を狩ったりもしているらしい。一応冒険者だしな。
クロは……厩舎で寝てた。
「教会の助祭ね。今更だが、やっかい事の香りしかしないな」
耳元で本日の護衛のハロルドさんがささやいてきた。
「まあ、少し思うところがありまして」
教会の助祭と言えばダンフォースだ。
あの後、サンサから周辺都市に伝えられた話によると、俺たちがサンサを出発した朝、盗賊が牢屋の中で皆殺しにあったらしい。ダンフォースはギルドから消えてしまい、現在は行方不明だ。
気味の悪い男だったが、いまやあの騒動の裏側を証言できる唯一の男だけに押さえておきたかったが……
ハロルドさんはそのニュースを聞いて、もう殺されてるんじゃないの? なんて気楽に言ってたが、確かにその可能性も高い。
まあそのダンフォースの話や助祭の話なんかも聞いてみたかった……ということもあるが、本当の理由はこれだ。
--------
サヴィール (16) lv.14 (人族)
HP:189/189
MP:255/255
SP:56
教会儀礼 ■■■□□ □□□□□
聖魔法 □□□□□ □□□□□
神星教助祭
サヴィール=ド=リヨン
--------
聖魔法のスキルがあるのに、レベルがないってのも不思議だが、それが、助祭称号による
問題は、称号のところにある「サヴィール=ド=リヨン」だ。
こういう隠された名前って、ノエリアのラップランド以来だが、情報のないラップランドと違ってリヨンには、バークス名鑑の王家に次ぐ場所で、なかなかのページ数が割かれていた。
リヨン公爵家。
バークス名鑑によると、現当主のファンデルハール=ド=リヨンは、現国王サマルカンド=アル=デラミスの兄だ。それでなんで王になってないのか謎だ。
末子相続の慣習があるのかとも思ったが、うちなんかを見ていても、長子相続が原則だよなぁ……
とにかく理由はわからないが、16年前、ファンデルハールは、王位を若干15歳の弟サマルカンドに譲って、自らはリヨン公爵家を立ち上げた。そう、何処かの公爵家を継いだわけではなく立ち上げたのだ。
領地は王の直轄地の一部を割譲されたらしいが、公爵家にしては異例の小ささだ。そしてこちらも異例の事ながら、現在
認識先生情報によると――どこかでゴシップ系の本でも混じってたのか?――当時、教会と、特に聖女様に入れ込んでいたという噂もあったらしい。
妻子がいないはずのリヨン公爵。
その家の名を秘められた称号として持つ、助祭の少女。
ほら、すごい気になるでしょ?
◇ ---------------- ◇
「……というわけで、本当は私、カール様が為されたように、みんなが幸せになれる道を探したかったのです。それが教会で見つかると思って」
目の前に座ったアッシュブロンドの少女が、お茶を目の前に、そんな話をしている。
そうだ、ここへは『話を聞いてあげるって』連れてきたんだった。
よく考えてみたら、ここでいきなり『あなた、リヨン公の娘さん?』なんて聞けるわけがないし、聞いても隠してるなら否定されるに決まってるし、ついでに警戒されて終わりに決まってるな。アホか、俺は。
「私は施政者で、あなたは宗教家ですからね。立場が違えば、みんなを幸せにする方法も違ってくるものでしょう」
彼女は俺の話に静かに耳を傾けていた。
「私がやったのはあくまでも施政者としての方策で、直接的で目に見えるから何かが進んでいるように思えるかも知れませんが、それでも住民のみなさんは神に感謝を捧げていましたよ」
「でもそれはたぶん、教会の神ではないのです。同じ名前でも」
そうつぶやいた彼女が、ふと思い出したように目を上げ、何気ない感じでこう聞いてきた。
「そういえば、カール様は、銀狼族の方を側近におかれているとか」
ああ、リーナのことか。
「はい。領主の代理が獣人を側仕えにおいていると、教会としてはなにか問題が?」
「いえ、そう仰る方もいるかも知れませんが……」
彼女は何かを逡巡するようにカップの縁を触っていたが、その手を止めると、別人のように強い視線できっぱりとこう言った。
「本来、教会の教えは人族至上主義ではなかったのではないかとも思うのです」
そういって、紅茶を一口飲んだあと、カップをソーサの上に静かに戻すと、
「今から大体2000年くらい前の話になるのですが――」
助祭服を着た薄い緑の目の少女は、過去を見つめるかのように話し出した。
「アル・デラミス王国は、初代国王であり勇者であったサイオン=アル=デラミスが、魔王を討伐した後、ライアル=マナス=デルミカントと一緒に興した国です」
「うん、そうらしいね」
「現在の教会に伝わる話では、魔王は3人の人族の勇者が4種族の族長を従えて討伐したとされています。これが人族至上主義の根幹になっていると言われています」
3人の人族とは、サイオンと一緒にアル・デラミスを建国した初代宰相のライアルと、ダビ王国を建国したノリス=エス=ダビだそうだ。
なるほど。優秀な人族が、他の種族を使って魔王を倒したって事か。
だから人族は、他の種族を導かなければならないって感じから、徐々に、他の種族を隷属させるに変わっていったってことかな。
「そうです。でもその話は、大体800年くらい前に作られた新聖典と呼ばれる聖典が根拠になっているのです」
「新聖典?」
「はい、それまでの1200年間で、様々な聖典が書かれて、分類も難しくなったため、それらを一度まとめて、正しい教義として編纂する作業を時の総主教が行わせたと伝わっています」
なるほどな、その編纂の過程になんらかの思惑が入り込めば、本当の話がゆがめられても仕方がないって事か。
地球でも、大宗教が地方の宗教をたくみに取り込んで布教していった結果、いろいろ複雑になったりしているしな。
「原典主義――2000年前の記録にあたろうとする人達――の人たちは、残されているそれ以前の記録や古聖典と新聖典の間に、あまりに相違点が多いことをふまえて、やはり新聖典以前に立ち返るべきではないかと考えました」
宗教アルアルだな。
「その研究者による最新の研究によると、実際は、5つ種族から5人の勇者が選ばれて、魔王を討伐したのではないかと考えられています」
「5人?」
「そうです。人族のサイオン、ドワーフ族のバーディン、エルフ族のサイマール=エルランディア、獣人族のバウワール、竜人族のディン=ディン=ダインです。後の4人が新聖典でいうところの4族長にあたります」
「じゃあ、教会で出てくる3人の人間というのは?」
「元は、サイオンが所属していたパーティのメンバーではないかと考えられていますが……実は、サイオンは4人パーティで活動していたことが、様々な資料からはっきりしています」
「4人?」
「はい、勇者であったサイオンと、それを召喚したと言われている魔法使いのライアル、それに斥候役だったノリス、そして……」
「まて。ライアルがサイオンを召喚した?」
「はい。空間魔法なのでしょうか、4人の優秀な魔法使い――パウリア、ロエロ、フィリパルエ、ウーダ――の力を借りて魔王討伐のために召喚したと言われています。その4人はその魔法で命を落とし、後の教会の4聖人となります」
「その魔法って……」
「アル=デラミスが秘匿しているとも、すでに失われているとも言われていますが、建国以来一度も使われていないので本当のところはわかりません」
建国したやつがもし日本人だったら、メトルだのシガだの、奇妙に一致する様々な事柄も分かる気がするが……
「それで、パーティの後一人は?」
「ヴォルヴァという魔法を使う女性だったようですが、詳しいことは全く分かっていません。人族かどうかも分かっていませんが、教会では便宜上人族だと考えられています」
「便宜上?」
サヴィールは声を潜めてこういった。
「サイオンは、ヴォルヴァとの間に子をなしている可能性があるのです」
なんと。確かにそれでヴォルヴァが人族でなければ、サイオンが亜人と契ったことになる。輝かしい勇者と、汚れた亜人との間に混血の子孫がいたなんて事になれば、サイオンを勇者としてあがめ、その力で人族至上主義を掲げる教会としてはいささか困ったことになるだろう。
もっとも、もしそいつが日本人だったとすれば、もふもふは大好きだったと思うけどね。
「ヴォルヴァはその後、東へ渡り、そこで、エルフ達がアールヴァン・ベン=アダールと呼ぶものと結ばれて、ゼレンディアを建国、いえ、ゼレンディアと自らが呼んだ地域を治めたと言われています」
もしそれが真相だったとすれば、今の教会の人族至上主義は間違っていて、各種族は対等に協力して生きていくべきだということになるわけか。
「私には、何が正しくて、何が間違っているのか、もうよくわからないのです」
「サヴィールさん」
「はい」
「宗教ってなんだと思います?」
「……わかりません」
「それはね、それを信じる人たちの超越的なものに対する依存心を利用した、装置なんですよ」
「それは随分と穿ったものの見方に思えます」
「まあね。でも、例えばボクには教会の言う信仰心はまったくないけれども、神様は信じてるし、畏敬から生じる敬虔な気持ちも持ち合わせている」
なにしろ実際にシールス様にあってるからな。
「例えばノエリアにも教会の言う信仰心はまったくないけれども、聖魔法を使う――
「そんな……」
「神を素朴に信じて敬虔な気持ちになることは、宗教に頼らなくてもできるんですよ」
「では教会はなんのために」
「だから装置なんですよ。ある人が敬虔な気持ちになるために聖堂に行くとしますよね?」
「はい」
「その人にとって、聖堂は敬虔な気持ちになることを補助するための装置になっているわけです」
「国が人を治めたり、領土を広げたりするのに宗教を利用するなんてことは、王国だけの専売特許じゃないし、そういうとき施政者は宗教を人をまとめたり動かしたりするための装置として利用しているだけなんですよ」
「そんな」
「装置そのものには、善も悪もないんです。だから、それを自分の目的のために使うのが一番ですよ」
「目的……」
「サヴィールさんは、みんなにできるだけ幸せになって貰いたいんでしょう?」
「はい」
「ならその目的を達成するために、教会という装置を利用すればいいんですよ。薪を割るという目的を達成するために斧を使うとき、手段や道具である斧に対して罪悪感を感じたりしないでしょう? 教会は、所詮その斧みたいなものなのですから」
そう聞いて、じっと自分の手元を見つめていた彼女が、ついと顔を上げ、吹っ切れたように俺を見て言った。
「カール様」
「はい?」
「私には、あなたのような考え方はできないと思います。でも、自分の思うとおりにやれば良いんだってことはよくわかりました」
「そうですね。それが一番肝要ですね。自分の人生の責任は、どうせ自分で取らなきゃならないんですから」
「……不思議な方」
仕方がないんですよ。一応シールス様の使徒なので。たまには迷える仔羊を導いたり、多少はそれらしいこともしておかないとね。
「は? いまなんと?」
「いえ、なにも。あなたはあなたの道を歩かれるのが良いでしょう」
「はい」
そうした話をしているうちに、日も傾き、彼女は、夕べの聖務日課に準備があるからと、辞去しようとしていた。
「カール様」
「はい?」
「またお話を伺わせていただきに来てもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。いつでもいらして下さい。そういえば助祭の方は普段何をなされているのですか?」
彼女の話によると、コートロゼのように教区が小さい場合は、月に3回――7日に一度――の礼拝日以外は、朝の聖務日課の後は夕べの聖務日課まで、とくに義務はないそうだ。
「強いて言うなら他のお仕事をしているかたが多いようです。小教区の場合は献金も少ないことが多いですし」
と恥ずかしそうにそういった。
「ではサヴィールさんも?」
「いえ、そうしたいのですが、今のコートロゼではなかなか……」
言葉を濁しているけれど、教会の食糧政策がちょっと悪辣だもんなぁ。仕事も見つかりにくいか。……まてよ? つい最近、販売員がどうとかって話がなかったっけ?
「サヴィールさんは、亜人のところで働かれるのは抵抗がありますか?」
「え? いえ、そんなことはありませんが……教会の紐付きなど、亜人の方のほうが嫌がるのではないでしょうか」
ふむ。嫌がるかな、あの自分の仕事以外どうでもよさそうなゾンガルが? むしろ大喜びしそうな気もするけれど。
◇ ---------------- ◇
「助祭をゾンガルに押しつける?」
「いや、押しつけるって酷いな。ゾンガルさんのところの家政婦兼販売員にどうかなーって」
サヴィールを見送った後、思いつきをハロルドさんに話したら、凄い勢いであきれられた。あれはどう見ても、『また、こいつが突拍子もないことをいいだしやがった』って顔だな。
「いいか、カール様。教会が人族至上主義を推進しているのは知ってるよな?」
「ええ、まあ」
「ゾンガルはドワーフだぞ?」
「サヴィールは、そういうの気にしないって言ってましたし」
「助祭じゃなくて、教会が気にするだろうが!」
するかな? するかもな。意地悪な同僚とかが、
『あなた、薄汚いドワーフの穴蔵で仕事をしているんですって?』
『穴蔵の住人は穴を掘るのもお得意でしょうからね、あなたも掘られないように気をつけなさい』
なんて言われちゃったりなんかしちゃったりして。
「おい、声に出てる。出てるから」
「はっ。ああ、まあその辺は、彼女に聞いてみるとして、ゾンガルさんはどうでしょう。嫌がりますかね?」
「ゾンガル? んー、どうかな。あいつ武器のこと以外はどうでも良い感じだしな。むしろあの偏屈さに我慢できるかどうかのほうが心配だな」
「ですよねー」
「いや、そんな話じゃなくてだな……」
「まあまあ。ボク達がここで想像で話し合っていても意味はないですから、ゾンガルさんに聞いてみて下さいよ」
「あ、ああ。わかった。メシまではまだありそうだから、ちょっとひとっ走り、行ってきてやるよ」
「よろしくお願いします。お買い得商品って事で」
「お買い得ねぇ……まあ、あの嬢ちゃん自体は悪い子じゃなかったよな」
「あれ?ハロルドさん、ああいう清純そうなのが好みでしたっけ?」
「いや、俺はもっとこうバインバイン……げふんげふん。では行って参ります、カール様」
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