第27話 カール君、指輪を買う。
「付与する元の商品を揃えたら、ご挨拶に伺います」
そういって、カリフさんはスキップしながら自分の商会に戻っていった。
さて、馬車が出来るまであと2日。まじめに冒険者でもやって、暇をつぶしますかね。
その前に、アイテムボックスを付与させる、ノエリアとリーナ用のアイテムを買いに行こう。いつも身につけているものというと、やっぱり指輪が定番ですかね……
「ノエリア、リーナ」
「「はい(です)」」
「これから、ふたりに指輪を買ってあげます」
「え?! 指輪ですか?!」
何を驚いてるんだ。
「でも、ご主人様とお会いして、まだ、一週間もたってませんし。あ、もちろん嫌ってわけじゃありませんけど……」
ノエリアは、赤くなってクネクネしながら、なにか意味不明なことをつぶやいている。リーナはぽーっと上気した顔で中空を眺めながら、尻尾をぶんぶん振り回している。
違うから。君たち、それ、違うから。
「いや、まて。なにか大いなるすれ違いがあるような気がするんだが、ほら、ノエリアの付与がうまくいってたから、ふたり用にもそれを用意しようとだな……聞いてる?!」
「聞いてますよ。ほら早く行きましょう」
「いく、ですっ!」
俺よりも背が高いふたりが、両側から腕を取って来る。
う。美少女ふたりに腕を取られて歩くとか、なんという嬉し恥ずかしい拷問だ。リア充爆発しろ。
道具屋には、件のハムサードさんがいた。指輪の類は、共同経営者のタルワースさんが制作しているらしい。細工職人だそうだ。
最初こそ、獣人の奴隷に、単なるファッションリングを選ばせた上で買ってやるなんて物好きな人だなという感じだったが、そこは獣人にあまり忌避感のないバウンドの裏通り、すぐに女の子の買い物らしくタルワースさんも巻き込んで、きゃあきゃあいいながら指輪を選んでいる。
その姿はとても奴隷だとは思えないくらいで……ダンジョン墜落事件も落ち着いてきたし、そろそろ解放してやりたいな。
ノエリアの選んだ指輪は、カルティエのトリニティリングのリングをすごく細くしたようなタイプで、なかなかエレガントだ。
リーナは、やや幅のある薄手のシンプルなリングで、表面に細かくルーンが掘られている。いかにもなんだかすごい魔法効果がありそうに見えるが、見た目だけのファッションリングだそうだ。
ふたつで金貨2枚を支払うと、お昼を食べに広場へと向かう。
これってちょっと、デートっぽくない?
ノエリアは、いつもの魚の塩串の店へ歩いていった。
そういえば、前の時にこっそり買った、シロカワとサンーマの塩串、まだ腕輪の中にあるぞ。
リーナは、俺の腕に捕まったまま、あっちの屋台、こっちの屋台と、いろいろ物色している。なんでも自由に買えるということが、凄く新鮮で楽しいようだ。
「ご主人様は、どれがお好き、です?」
「そうだな、色々食べてみるか。リーナはどれが好きなんだ?」
「んー。ブラックウルフはちょっと癖がありますけど、あの堅さがいいです。歯ごたえがあって。タイダルボアは、リーナにはちょっと柔らかいけど、脂もコクもあって、とても美味しいです。でも一番好きなのはご主人様のお肉、です」
いや、それ、なにか誤解を招きそうだから。
「ここがご主人様の次に美味しいの、です」
と、リーナに連れてこられた屋台は、ガタイの良さそうなオッサンが、秘伝っぽいタレに串を浸して焼いていた。へー、炭を使ってるんだ。
「お、嬢ちゃん、また来てくれたのか?」
「はい。今日はご主人様と一緒なの、です」
ニコニコしながら、俺を紹介するリーナ。
「へー、あんたが。なんだか随分大事にしてるみたいだな。そんなに嬉しそうな奴隷は見たことがないぜ」
「申し遅れました、リーナの主人のカールと申します」
名字はやめとこう。面倒になると嫌だし。
「おう。俺はバーナムだ。よろしくな」
いろんな魔物の串を比べてかじりながら、バーナムさんが色々教えてくれたところによると、魔物というのは基本的に魔力の強いものの方が、味の良いものが多いらしい。
「もしよかったら、これを焼いてみていただけませんか?」
と、100gくらいの大きさにカットした、DHサーペントの肉を10個ほど出してみた。
「おお? この肉は?」
「ダブルヘッドサーペントです」
「ほー、高級食材だな。どこで手に入れたんだ?」
バーナムさんは、話ながらも、てきぱき串に刺して、タレを加減しながら、焼き始めた。少し山椒のようなスパイシーな香りが立ち上がる。
「私のパーティで狩ったものです」
「へー坊主は若けぇのに冒険者なのか」
「ええ、まあ」
内心苦笑しながら相づちを打っておく。
「なにか、独特の香りですね」
「ダブルヘッドサーペントは、皮ぎしに、焼くとスパイシーな香りを出す部分があるんだ。だからすぐわかるのさ」
気がつくと、周りに人が集まっている。え、みんなサーペント狙い?
「ほら、焼けたぞ」
「バーナムさんも、どうぞ」
「お、ありがたいね」
リーナと俺に、1本づつ渡し、自分でも1本をかじり始めた。
「ご主人様、凄く美味しい、です」
リーナは尻尾を振って喜んでる。あ、ノエリアが香りに気がついて、こっちに向かって来た。
「良い匂いですね、ご主人様」
目を細めて、香りを嗅ぎながら、後ろから首に抱きついてくる。
「ほら。ちょっと食べるか?」
「はい。かぷっ。むぐむぐむぐ。……とても、美味しいです」
「おい、それDHサーペントだろ? もうないのかよ?」
と周りの一人が、バーナムさんに話しかける。
「わりーな。そっちの坊主の持ち込みなんだわ。こんなもん、屋台の仕事で仕入れられるかよ」
「なんだよ、仕方ねぇな。こんな香りをばらまきやがって」
うーん。まあ、600kgもあるしな。
「あの。良かったら提供しましょうか? 代金はタイダルボアと同じくらいでいいですから」
「そうはいくか。タイダルボアが1本20セルスってところだから、1本50セルスでどうだ。それでも格安だろうしな」
「おお、50セルスなら安いな」
とりあえず、100g塊を5kg分提供してみたけれど、なんだか飛ぶように売れている。冷静に計算すると、ギルドの買い取り価格で、普通のDHサーペントの肉は8000セルスだったはずだ。それで600Kgの肉が取れるから、おろしは、1kg/13.3セルス くらいだ。安。200gの串で50セルスだとすると、最終的な売値は、キロ250セルスだから……大体おろしの20倍かよ。
おい、ギルド、利益率どーなってんだ?!
結局全部で10kgを提供した。串にして50本分だ。時間は昼から外れていたが、滅多に出回らない食材&格安で、食欲を刺激する香りだからか、すぐに売り切れたようだ。鰻屋方式最強だ。
「おう、坊主。サーペントの肉ありがとよ。これが坊主の取り分だ」
と、小金貨1枚、銀貨2枚、そして銅貨を5枚渡してくれた。しめて、1250セルスだ。
「半分も頂いていいんですか?」
「心配すんな。十分儲かったよ」
と笑いながら、余ったブラックウルフの串を渡してくれた。
リーナは喜んでかじっていたが、人族10歳の俺に、ブラックウルフはちと堅かった。アゴが疲れるぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます