双子姉妹

碗古田わん

第一話『双子姉妹』

『双子姉妹』

 それは桜の舞う季節も終わり告げようとしていた四月の半ばの事だった。

 私立山手女学館中等部三年伍組の三時限目は音楽だった。その日、日直だった楠羽音くすのきはのんは教材の片付けでみんなよりも後に音楽室を出た。

 軽くウェーブのかかったサラサラの髪を背中まで伸ばし、くりっとした目とぽっちゃり気味の頬が愛らしい美少女だ。

 制服のスカートの裾を僅かに乱しながら羽音は早足で廊下を歩いていた。渡り廊下付近でようやく級友の集団に追いつきかけた時……、

「楠先輩っ!」

 背中から声を掛けられた。

「ん?」

 足を止めた羽音だったが顔は訝しげだった。その声に聞き覚えがなかったからだ。

 とりあえず振り向く。すると、やはり見覚えのない女子生徒が足早に近づいてくるのが見えた。リボンの色からすると一年生らしい。

「先輩っ!」

 しかし、対照的にその後輩女子は親しげに自分へと話し掛けてくる。ますます心の中で首を傾げる羽音だったが、

「今日の委員会の事なんですけど」

「委員会? ……ああっ!」

 その言葉でだいたい察しがついた。

「君が用があるのって、多分、あっちだと思うよ」

 そして、自分の目の前、つまりおしゃべりしながら歩く級友達の方を指さす。

「えっ?」

 釣られるようにそっちを見た後輩女子は、唖然となった。

「えっ? えっ?」

 それから何度か羽音と指さす方を見比べて、ようやく自分の間違いに気付いた。

「ご、ごめんなさいっ!」

 顔を真っ赤にして慌てて頭を下げる女子生徒に羽音は冷汗笑いするしかなかった。

 その背後では、軽くウェーブのかかったサラサラの髪を背中まで伸ばし、くりっとした目とぽっちゃり気味の頬が愛らしい、羽音とまったく同じ容姿をした美少女――姉の楠音羽くすのきおとはがほんわか笑顔を浮かべながら楽しそうに歩いていた。

 音羽と羽音、二人は双子姉妹だった。

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