【不意打ち】

「もう帰るっ!」

 恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしながら、羽音はぷいっと音羽に背を向けると今度こそ一人で歩き出した。

「あっ、置いてっちゃ嫌だ~」

 音羽は、芝居かかった仕草で何かを掴むように手を前に伸ばしながら哀願すが無視する。まったく悪びれない様子にさらに腹を立てながら羽音は足を速めようとした。

 と、不意に手の平に音羽の手が触れた。そのまま包むように握りしめられる。

「!!」

 どきっとなった羽音は、思わず足を止めてさっきまでとは違う理由で頬を赤くした。

「ごめんね~、はのんちゃん~」

 手を握りしめたまま横に並んだ音羽は、様子を伺うように羽音の顔を覗き込みながら、まるで子供をなだめる母親のような微笑みを浮かべた。

 その言葉と笑顔は、つないだ手の温かさと相まって羽音を幸せな気持ちにさせた。

「…………いいけど」

 だが、それを表に出すのはかなり恥ずかしい。なので隠すようにわざとぶっきらぼうな態度を取る羽音だった。

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