【演技指導】

「今のでも駄目なの?」

 舞台から見下ろしながら、夕貴はあからさまに不満そうな顔をした。この場面シーンは、部室での稽古の時から、何度となくダメ出しを喰らっていたからだ。

「う~ん~、なんて言うか~」

 今回の舞台で脚本演出を担当している音羽は、顎に人差し指を当てて首を傾げた。

「好きって気持ちが~、今ひとつ、態度に表れてない~?」

 それから、ほんわか笑顔で指摘する。

「……これでも精一杯、表現してるつもりだけど?」

 その言葉に、夕貴の中の何かが切れた。自然と語尾に怒りが籠もる。

「ゆ、夕貴ちゃん……」

「そこまで言うなら、部長が見本、見せてよ!」

 なだめようとする藍子を無視して、音羽に食って掛かる。

「いいよ~」

 しかし、音羽は、後輩の生意気な態度もまったく気にしない様子で、あっさり了承する。

(…………)

 何故か嬉しそうな笑みを浮かべている音羽を見て、嫌な予感に襲われる羽音だった。

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