第六話『軍曹《サージ》、出撃』

『軍曹《サージ》、出撃』

 それは大型連休ゴールデンウィークも開けた五月の半ばの事だった。

 昼休みの三年伍組の教室で、楠羽音くすのきはのんは級友の夏川琴美なつかわことみと弁当を食べていた。

 席が前後なので、机をくっつけて座っている。

 羽音のお弁当は今朝、自分で作った物だ。

 羽音の母は、料理は出来るが、朝は仕事が事が多く、食事は娘に任せっきりになっていた。

 小さなお弁当箱には、昨日の晩ご飯の時に焼く前の状態で分けておいたハンバーグと、卵焼き、それにレタスとプチトマトが入っている。

 一方、琴美の弁当は母の手作りで、これまた小さなお弁当箱には、豚バラ肉のみそ漬けときんぴらごぼうが詰まっていた。

「羽音ちゃんのハンバーグ、美味しそう」

「食べる?」

「いいの?

「じゃあ、あたしのお肉もあげる」

 二人は、フォークで互いのおかずを交換シェアしたりしながら、昼食を楽しんでいた。

「同志音羽は?」

 そこへ、おかっぱ頭に度の強い黒縁眼鏡を掛け、スリムな身体をした少女がやって来た。

 級友の児玉薫こだまかおるだ。

 文芸部の部長で、羽音とは初等部からの顔見知りだった。

「職員室」

 羽音はフォークで卵焼きを突きながら答えた。

 席にはもう一つ、巾着に入ったままの弁当箱が置かれていた。

「直ぐ、戻ってくると思うよ」

「そうか」

 薫は頷いた。

「おとはになにか用?」

 すると、薫は脇に掛けていたタブレットを差し出す。

「演劇部の文化祭公演用の原作が出来上がったのだ」

「げっ!」

 羽音は思わず呻いた。

 ちょうどその時、羽音と瓜二つの顔をした少女――楠音羽くすのきおとはがほんわか笑顔を浮かべながら、教室に戻ってきた。

 音羽と羽音、二人は双子姉妹だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る