【早く着いた理由】

「夕べ、眠れなかったみたい」

 ぐっすり眠る姉を見ながら、羽音は苦笑いした。

「おかげで連れてくるの大変だったよ」

 そして、溜息をつく。

「朝はベッドから離れないし」

 音羽が朝弱いのはいつもの事だが、今朝は本当に酷かった。

「食事中も寝ちゃって」

 おかげで、羽音が食べさせるハメになった。

「寝ぼけててちゃんと歩けないんだもん」

 羽音は困り顔で、熟睡する音羽を見た。

「見かねたお母さんが、駅まで車で送ってくれたんだぁ」

 ちょうど徹夜で取引をしていた母が、古いイタリア製のセダンで家のある瀬渓せたに区から新横浜の駅まで乗せてきてもらったのだ。

「もう本当に参ったよ」

「それで早く着いたんだ」

 肩をすくめる羽音に、苦笑いしながらも納得顔の琴美だった。

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