【真打ち、登場】

「ごめんね~、遅れちゃった~」

 定期券PASMOを自動改札機におっとりと当てて改札を潜り、ようやく羽音と琴美のところまできた音羽は、悪びれた様子もなくいつものほんわか笑顔を浮かべた。

「謝るぐらいなら、走ればいいのに」

 琴美は全く気にしていない様子だったが、羽音はそんな姉の態度にカチンときた。思わず語尾を強めて皮肉めいたことを言ってしまう。

「え~っ~」

 しかし、音羽は露骨に嫌そうな顔をすると、駄々をこねるような口調で言い返す。

「走るの苦手~」

 あまりの発言に羽音は呆れ顔で音羽を見た。それが気に入らなかったのか、音羽は珍しく頬を膨らませて不満そうな表情をする。

「それに~、元はと言えば~、電車~、乗り遅れたのは~」

 それからにっこり微笑むと、悪戯した子供に言い聞かせるようにやんわりと指摘した。

「はのんちゃんが、寝坊した所為せいでしょ~?」

「まぁ……そうだけど…………」

 痛いところを突かれて、それ以上何も言えなくなる羽音だった。

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