第七話『旅と道連れ』

『旅と道連れ』

 それは五月も半ばの事だった。

 私立山手女学館、三年伍組の一時限目は、LHRロング・ホーム・ルームだった。

「では、今から修学旅行の班決めを行います」

 教壇に立った担任の三代円みしろまどかは、教室中をぐるりと見渡した。

 背中まである黒髪を両サイドだけ後ろにまとめて、つぶら瞳とほっそりとした顔とした女性だ。性格は明るく親しみやすく生徒からの人気も高い。

「一班は四人つづで、決まったらメンバー表を書いて提出してください」

 それを聞いている生徒達は、さっきからソワソワしていた。

 修学旅の行先は京都。

 期間は、来月の頭から二泊三日の予定だった。

「それでは始めてください」

 円の声に、生徒達は一斉に席を立って、おのおの友達のところへと集まる。

「?」

 立ち上がろうとした楠羽音くすのきはのんは、背中を突かれて後ろを振り返った。

「羽音ちゃん」

 そこでは夏川琴美なつかわことみが明るい笑みを浮かべていた。

「一緒の班になろうよ」

「いいよ」

 琴美の言葉に羽音は頷いた。

「おとはもいいよね?」

 それから席に寄ってきた楠音羽くすのきおとはに聞く。

「いいけど~」

 音羽はほんわか笑顔を浮かべた。

軍曹サージちゃんも誘っちゃったけどいい~?」

 遅れてやって来た児玉薫こだまかおるを、チラッと見てから音羽は問い掛けた。

「もちろん!」

 琴美は二つ返事で快諾した。

「よろしく頼む」

 薫は真顔で頭を下げた。

 琴美は、最初に考えていたとおりの班になって、全く同じ顔の音羽と羽音を見ながらニコニコと笑みを浮かべた。

 音羽と羽音、二人は双子姉妹だった。

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