「新人の基礎練習の課題に男役が入ってるでしょ？」

　戸惑う藍子や二年生部員を見かねて、羽音はおもむろに説明を始めた。

「当然、あたしやおとはもやったんだけど、その時……」

　そこで羽音は、困ったような顔で肩を竦めた。

「おとはが、相手役の先輩をメロメロにしちゃったの。あと周りで見てた先輩達も」

「!?」

　それを聞いた藍子や夕貴、それに二年生部員達は大きく目を見開いて、言葉を失った。

　音羽は、女の子好きが何故る業（わざ）か、先ほどのように普段からは想像もつかないぐらいの男前な演技で、先輩達の恋心（ハート）を鷲掴みにしてしまったのだ。

「あの時は凄かったね～。先輩達にお姉様とか呼ばれちゃって～」

　しかし、当の本人は、わたしの方が年下なのに～、と呑気に笑うだけだった。

「それで当時の部長が、おとはの男役はキケンだって封印させたの」

　それを見た羽音は、諦めと疲れが入り交じったような微妙な笑みを浮かべる。

「……そうだったんですか」

「あはは……」

　事の真相を知って、驚きの声と乾いた笑いしか出ない藍子と夕貴だった。

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