第四話『横浜買い出し紀行(中編)』

第四話『横浜買い出し紀行(中編)』

 それは大型連休ゴールデンウイークも真っ只中の五月の初めの事だった。

 楠羽音くすのきはのんは、姉の音羽おとはと級友の夏川琴美なつかわことみと共に横浜に買い物に来ていた。

 音羽の買い物が終わったところでお昼になったので、三人はファッションビルを一度出て、近くのファーストフード店に入った。

 注文を音羽が引き受けてくれたので、羽音と琴美は二階に上がり席を確保することにした。連休中ということもあり店内はかなり混んでいたが、幸い空いている席を見つける事が出来た。

 が……、

「遅いねぇ」

 頬杖をついた琴美は、少し退屈そうに言った。

「うん……」

 それに対して羽音はちょっと心配そうに頷く。待てど暮らせど、音羽が来なかったからだ。レジもかなり混んでいたから時間が掛かるのはわかっていたが、それにしても遅すぎる。

「やっぱり運べないのかなぁ?」

 羽音につられるように琴美も不安そうに階段の方を見る。育ち盛りだがいろいろ気になるお年頃でもある女子中学生らしく、琴美はハンバーガーのセット、羽音がポテトとドリンクを選び、音羽だけが一番大きいハンバーガーのセットを選んでいた。一人で大丈夫と言うので任せたのだが、これなら一緒に並べば良かった、と、羽音は後悔し始めていた。

「あたし、ちょっと様子を見てくるね」

 堪らなくなった羽音は、琴美に断ってから立ち上がると、席を探す人混みをくぐりながら階段の方へと歩き出した。

「ん?」

 階段を下りだして直ぐに、羽音は子供達のはしゃぐ声に気付いた。一階の方から聞こえてくる。みんな口々にネズミー映画に出てくるお姫様の名前を叫んで大喜びしていた。

(なんか、イベントでもやってるのかな?)

 首を傾げつつも階段を下りる。すると、大勢の子供達が何かに群がっているのが見えた。きっと着ぐるみでもいるんだろう、そんな事を考えながら一階へと降り立つ。

 で、固まった。

「えへへへへ~」

 甘ロリ服姿――まるでお姫様のような格好――に身を包んだ自分と瓜二つの顔をした姉が、ハンバーグやドリンクが載ったトレイを持ったまま、周りを囲んだ小さな女の子達に嬉しそうにほんわか笑顔で愛想を振りまいていたからだ。

 音羽と羽音、二人は双子姉妹だった。

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