第27話 腐れ縁

 ――師匠。

 私は、騎士になってよかったと、今ようやく思えています。

 恐らく、そう遠くない未来にこの道は途絶えるけれど…


「一人でなに黄昏てんの」


 気付けば隣にハンクがいた。墓の前に二人座った。


「師匠がもたらした人脈について考えてた」

「なに、俺の話?」

「どうかな」

「はは、冗談だよヨア様のことだろ?」


 よくわかっていらっしゃる。


「…あのさ」


 くだらない話を続けるのかと思ったが、ふと真面目な空気を感じて顔を見ると、ハンクもこちらをみていた。

 何か言葉を探しているような、少し怖がっているような、そんな顔をしていた。


「ヨア様が師匠のもとで武術を習ってたのは、城の教育の関係なんだろ?それって、城の官はみんなそうなのか?」


 ハンクは、ヨアが師匠に習っていたと知っていたのか。いや、覚えていたという方が正しいのか?

 確信を持った口調なのでおそらくヨア本人に聞いたのだろう。


「知らないよ」

「いやなんていうか、武術習ってんならレイを騎士につける必要なくねって思って…」

「何が言いたいの?」


 意図的に、不満な顔をしてみせた。話の本質が見えなくて心地が悪い。ヨアがレイを従えていることに不満でもあるのか。はっきり言って欲しい。付き合いの長いハンクとはいえ彼の思考全てを察せるわけではない。


「…消えた王子様って、あの人だよな?」


 一瞬、時間が止まった。


「…なんの話?」

「本当は王子様は二人いた。けれど一の王子の方は都市伝説になって消えた。お前は見習いとして入ってばっかだったからあんま印象にないだろうけど」

「じゃあ私に聞かないでよ」

「ごめん、レイなら知ってるだろうなって思って」


 要は、確信したかった訳だ。ヨアに聞いてもはぐらかされるかもしれないが、レイが知っていれば反応でわかるから。

 実際彼はもう疑う必要など持っていないだろう。ずるい。


「ちゃんと本人と話してよ。私に聞かないで」

「うん。そうする」


 ふと、騎士を辞める決意を話そうか迷う。ヨアの判断に従うつもりではあるが、個人の感情としてはハンクには話しておきたかった。

 だがまもなくハンクは立ち上がって伸びをした。真面目な話をする空気が紛れてしまった。


「あんまり危ないことするなよ」

「それ騎士に言う?」

「騎士としてじゃなくて、幼馴染として言ってんだよ」


 きっと廃嫡されたあの王子が魔王戦のキーマンであることは彼もわかっているのだろうと思った。

 騎士が多少危険に出会うのは仕方がないこととして、個人で王子に従える者として、選択を誤らないようにと彼は伝えたいのではないか。


「むしろ私は安全な道に行くつもりだよ」


 この比喩が彼に伝わるとは思っていない。ただ、腐れ縁だった彼とようやく道を違えることに寂しさを覚えて、全てを話したい気分に襲われてしまった。だから中途半端な返事になってしまった。

 ヨアだってレイを尊重してくれているし、多少好きにやっても上手くやってくれるだろうけど。逆にハンクを巻き込ませたくなかった。


「そうかよ」


 彼は笑って言った。

 それがどこか寂しそうに見えたのは、きっとレイの感傷のせいだ。

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