第52話 とぶ

 なるほどマグナ軍は予想通り強敵だった。

 戻って来る騎士たちで怪我を一つも負っていない者が殆ど無い。死者も既に複数名出ていると。


 とはいえ全く劣勢というわけでもなかった。

 マグナ側の死傷者も同数程度、むしろ僅かだが相手の死者数の方が上回っている。


 しかし同等程度であるのは変わりない。

 このままでは消耗戦だ。そうなると圧倒的にこちらに不利。規模と人数で比べれば間違いなくマグナが優勢なのだから。



 そしてようやく、レイの部隊が戦線に出された。

 防衛前線がだいぶ下がってきた頃だった。



 すっかり日の暮れた平原に立ち、レイは白い息を吐く。

 十二月ももう末、一年が終わろうとしていた。


 本当はさっさと決着をつけてしまいたい。

 戦死の報せが入るたび心が痛い。救えた命があったのではないかと落ち込む。


 ――救う、なんて随分な自惚れだ。


 自嘲的に笑った後で首をふる。

 こんな笑い方では駄目だ。もっと不敵に、ふてぶてしく、麗しく。


 ――いや、笑わなくていいや。嘗められないことが目的だから。


「準備はいいか?」


 一人問答をしていると、隊長が騎士たちに呼びかけた。

 はっ、と歯切れの良い声が短く響く。


 隊長による激励。

 騎士たちの表情が引き締まるのが見える。中にはウェヌム陣営であるはずの者もいたが、様子を見る限り裏切りの心配はなさそうだ。無論、警戒は怠れはしないが。


「出動!」


 おぉぉ、と叫んで騎士たちは走り出す。

 レイはその群れの前線に出て、襲い来る敵を薙ぎ払いながら、敵軍の大将を探す。


 視界が悪い。

 マグナの連中は平均的に背が高い。ただでさえ女のレイは周りより目線が低いというのに。

 しかも相手が持つランタンが時折チカチカと光って少し眩しい。

 相手への攻撃もそこそこに一人で前線を上げていくが、果たして進む先に目指している相手がいるかどうかはわからない。


 煩い。知らない言語が飛び交う。

 この喧騒で、相手の指揮官はどうやって指示を飛ばしている?

 何かあるはずだ。音でもなく、魔法でもなく、統率を図る方法が。


 どこに。


 眼前に刃が迫る。

 身を屈めて躱し、くるりと回って距離を取る。

 と、背後にも敵が待ち構える。だが遅い。剣を弾いて、再び襲いかかる攻撃は軽く避けて、少しばかり反撃。

 頭を狙って振りかぶる。当然、相手は身を低くして、懐に入り込もうと踏み込んでくる。

 それを踏み台にして、レイは跳んだ。


 一瞬、人の頭数の多さに圧倒された。

 まずここら一帯の歩兵・騎兵。レイの背後側にいる数のほうが多い。

 そこを抜ければ弓兵が並ぶ。入り乱れているため今は迂闊に射てないのだろう、構えている者は少ない。

 弓兵の壁を抜けた先、まっさらな平原の少し先で、チカチカと何かが光った。


 ランタン――いや、信号だ。


 そう気付いたのは、こっちの光が一斉に同じタイミングであったことと、遠く浮かぶ光との間にずれがあったからだった。

 あの光に呼応して光っている。


 マグナ。なんてことだ。遠隔で明かりを操作できるのか。

 事前情報ではかの国は魔術を扱わないと聞いていたのだが。もしこれが魔術じゃなく人工的なものなのだとしたら、その技術は称賛に値する。

 そりゃあウェヌムもネブラも、勝てないと思うわけだ。


 着地したレイの行く先は決まっていた。


 躱す、流す、隙間を抜ける。

 そして、弓兵と対峙した。

 ここまで敵が来るとは思っていなかったらしい、少し驚いた顔をして、間もなく一斉に弓を構える。


 ――これは、避けられないな。

 全注目がこちらに向いている。列までそこそこの距離はあるし、無傷でそこまで辿り着くことは出来ないだろう。


 ならば仕方がない。


 相手の引いた弓が弾かれる前に、レイは

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