4 ひとつ、ふたつ、ほどく

第21話 魔の呪縛

「ようこそいらっしゃいました」


 厳しい自然環境に暮らす民、その族長が出迎えにいらしたようだ。

 少し方言訛りのある喋り方、艶のある黒髪、褐色の肌、涅色の眼。民族特有の化粧を施した切れ長の目が凛々しさを印象付ける。


「ハレナ様。お久しぶりです。」

「はるばる王城からお疲れ様でした。どうか意義ある時間となりますように。」

「お心遣い、感謝いたします。」


 ヨアの一礼に頷き返し、彼女はこちらに目を向けると小さく微笑んで、片手を差し出してきた。


「女性の騎士様に会うのは初めてです。名前を伺っても宜しいでしょうか?」

「レイ・アクアと申します。」

「レイ様。素敵なお名前です。貴方も一緒に聴いてください。砂漠の民が見つけし、魔族の伝承について。」


 ハレナとヨアが歩き出したので後に続く。


 向かっているのは、集落の中央に立つ、ピラミッドのてっぺんを切ってとったような人工的な山。

 頂上に水源があるようで、そこから各地へ細い水路が引かれている。


 砂漠は、昼間は刺すような陽射しが暑く、夜になれば氷点下に達するほど寒い。

 暑いよりは寒い方がまだ活動しやすいため多くの人は夜に移動を済ませる。

 レイたちも夜通し砂漠を渡ってきたが、集落に着く頃には朝日が昇って、砂に混じった鉱石がキラキラと反射していた。


 涅色くりいろの瞳たちが通りすがりにレイたちを見据える。

 砂漠は遠い上、辿り着くまでに危険も伴う。騎士業で各地を回っているレイだってここには初めて訪れた。

 四方の民と一般族の隔たりは比較的大きいのだ。向こうにとっても、異民の姿を見る機会は多くはないのだろう。



 案内されたのは、例のピラミッドの最奥にある部屋だった。古びた本が数多く立ち並ぶ。

 ハレナは中央にあるソファにレイたちを座らせ、いくつか紙束を抱えてローテーブルを挟んだ向かいに座った。


「まず前提として――」


 ハレナは、魔族――主に魔王や魔獣などの仕組みについて話をした。


 魔族でいうところの死は、あくまで肉体の死であり、魂は循環し続ける。


 死して肉体を失った魂は、この世の裏側にあると言われる魔界に帰り、そこで長い眠りにつくという。やがて時を経て、生まれ変わってこの世界に戻ってくる。


 わかりやすい例で言えば、魔王はおよそ五百年毎に輪廻転生を起こしている。何度も復活しては王家に倒されることを繰り返している。


 他にも、この国には魔獣が存在する。定期的に地から這い出てくるのだ。

 これも輪廻が原因と言える。

 魔獣は下級であればあるほど個体数も多く、輪廻の周期も短いのだそうな。だから、放っておけば増え続けてしまうそれを、国家騎士団は処理して回るのだ。


 この輪廻を絶つ術は、王家ですら知らない。 

 だから、これまでずっと同じ歴史を重ねてきた。魔王が復活しても、再び五百年後に戻ってきてしまっていた。


「私は、この輪廻は永遠だとばかり思っていました。砂漠の民は、魔王を生み出す運命からは逃れられないのだと。」


 しかし、ある老爺が死に際に気になるうわ言を呟いたのです。

 「真実は、魔の闇の中に」と。


「本来、魔界をみることが出来るのは、魔王の資格を持つ者などの、輪廻の対象となる人のみです。女神に跪いた砂漠の民はその権利を持ちません。それを、搦手のような方法で魔術を使い、魔界を探り続けた。」

「見つけたのですか。」


 ソファが揺れて、レイの体が少し浮く。

 神妙な面持ちで、ハレナはゆっくりと頷く。


「魔王は、滅します」


 呪いは、解ける。

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