幕間 海を見て育った瞳

 砂漠へ向かう道中の平原、雨宿りで木陰の下にいる時のことだった。


「ヨア様」

「うん?」

「動かないでください」

 

 そして暫し沈黙のあと、彼女が剣を抜いて目の前から消えた。

 ほぼ同時に金属のぶつかる音が耳に触った。


 後ろを振り返れば、数人の盗賊がヨアを見ていた。だが前にはレイが立ち塞がる。


 初めに襲いかかった者には、攻撃を避けた後に前足に蹴りを食らわせて、向こうが呻いたところで膝裏をとって転ばせる。


 そこで襲ってきた二人目の鉈は剣を抜いて防御。すかさず追い打ちをかける。

 身を退け反らせて回避したようだが、剣先が首元スレスレを通り、相手が息を呑んだのがわかった。反らされた鳩尾みぞおちを蹴って倒す。


 直後、くるりと回転する。その横を一筋の矢が通り過ぎていく。

 気付けば彼女の左手には、いつも腰に刺している短刀が握られている。


 木の影で弓を構える奴に投げるのかと思いきや、後ろを振り向いて、こそこそ近寄ってきていた盗賊に投げる。

 ヨアもそれには気付いていて腰の剣に手を伸ばす用意はあったが、その必要もなさそうだ。


 駆けて一瞬で近付き、押す、押す、押す。鍛えられた力量もさながら、剣筋が的確で速い。全て峰打ちで対応する余裕さえある。


 やがてレイが相手の手元を叩いて鉈を落とさせ、綺麗な顔面蹴りでノックアウト。

 同時に、木の影で震えながら弓を持っていた、及び敗北した盗賊たちは叫びながら逃走した。


 ――綺麗だ。


 剣を鞘にしまったレイを見て、そう思った。

 昔、先生の剣技を見た時も同じように感じたのを思い出した。


 人を傷付ける動作が、靱やかで麗しい。

 それに憧れてしまうのは…憧れさせられてしまうのは、罪深いことだと思った。


 戦は無いに限る。それでも憧れは生まれ続け、騎士の道は受け継がれるのだろう。


「行きましょう」


 ターコイズブルーの瞳がこちらを見つめる。

 幼い頃見ていた海が恋しくなって、ヨアはふっと微笑んだ。

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