第22話 砂漠の長
「それは…もう魔王が生まれないよう輪廻を絶つ、ということですよね?」
「はい。ただしそれにはいくつか条件が必要です。」
言葉を待つ。ハレナは膝においていた紙束をレイたちに提示する。
砂漠の民が扱う言語で書かれたメモ書き。
「祖国ソルアラの三の門を閉じよ。女神、現し世に立て込めらる魔王の魂許し給ふ、ここに女神、科より解き放たれん。」
隣で透き通った声が朗読する。
「門というのは、魔界とこの世を繋ぐ境界のことで、この集落内、北東の教会のそば、南西の村近くの三箇所で確認できています。まずはこれを封じます。」
「魔術があれば誰でも閉じられますか?」
「閉じるだけなら可能ですが、ここでは、聖なる力で閉じる必要があるかと。現し世に魔王を閉じ込めなければならないので。」
「なるほど、立て込めらる…。」
「その状態で、聖なる力によって魔王を倒す。さすれば、きっと砂漠の民は救われます。」
聖なる力を持つ人に大きな負荷がかかるな。
結局それが指すのは王ということになる。
果たしてルナは魔王封印を行わないつもりなのだろうか。
「何かご質問はございますか?」
こちらを向いて微笑んでくれたハレナの気遣いには感謝するばかりだ。レイは一介の騎士でしかないというのに、ご丁寧に説明してくれて。
「私からは特に。」
「では私から一つ。」
隣からヨアが声を発する。どうぞ、とハレナが促す。
「魔王の生まれ変わりは、今どちらに?」
「予言が下りて間もなく、母の方が魔王の子を連れて集落を出て、南の方の村に移ったときいています。」
――まさか。
すう、と息を吸い込んで、吐く。
ソルアラの南にある村といえば、海の民が集まる南東の村か、移民が多く集まる南西の村――レイの故郷の二つだ。
幼い頃からよく、知らない人が村に移り住んでくることはよくあった。砂漠の民にも出会ったことはある。
「その人の名前を教えていただけますか。」
「母の方がアニ、子の方がイオです。」
やっぱり。知っている。
村民と移民は交流が深い。小さな村だからこそ繋がりが大きいものなのだ。
アニとイオの母子は、レイが叔父に引き取られ村に来た時には既に滞在していた。
こちらが人見知りだったため直接交流することはあまりなかったが、ハンクがよく話しかけに行っていたのは覚えている。
「しかし…つい先日、アニの訃報が入りました。以降、イオの状態が良くないと聞きます」
「状態が良くない、とは?」
「アニの知らせが入ってから、イオとの連絡が途絶えたので使いを送ったのです。聞いたところによると、しばらく彼は殆ど何も口にしていないと…」
肉親が亡くなれば、当然ショックも受けるか。
ただ、些か大袈裟な悲しみ方にも思えた。よほど酷い別れ方でもしたのだろうか。
「実は私達、元々もうすぐ南西の村を訪れる予定だったのです。ついでにひと声掛けて参ります」
「お願いいたします。絶望に堕ちて野垂れ死んでほしくはありません。」
魔王の生まれ変わりという悲しい運命を持つ彼だからこそ、生きている間はせめて安らかであってほしい。
自分たちの言葉で救えるかは、自信がないけれど。
「我々にはあなた様が必要です。どうか、力を貸してくださいませんか。」
「私に出来ることでしたら、なんなりと。」
隣の王子はふわりと笑って、その長い指でハレナの手を包んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます