第23話 晩餐
「例えば、我が国がマグナと戦争をすると言ったら、貴方はどうお考えになりますか?」
その夜、夕食の最中、ヨアがハレナに尋ねた。
砂漠の民の長は穏やかな表情のまま咀嚼をし、飲み込んでから口を開く。
「こちら側が手を出すというのなら、砂漠の民は傍観します。向こう側が手を出してきたのなら、国の仰せのままに」
「戦うのなら、魔術ででしょうか?」
「恐らくは。ただ、魔力にも限界がありますので、通常の武器も併用することになるでしょう」
魔力があるのか。魔術に関しては全く触れることなく育ってきたため、そういった話は新鮮だ。
故郷を訪れた移民たちの中にはイオたち以外にも砂漠の民はいた。
ハンクに引っ張られて魔法を見せるようねだったことも一度か二度はあったけれど、それさえもう遠い昔の話。
「我が砂漠の民の警備隊は、個々によって使える術も異なるため戦闘方法も様々です。一覧表をお望みですか?」
「一覧があるんですか。ぜひ見たいです」
「後ほどお渡しします」
「ありがとうございます」
――ということは。
「戦争は、起こるのですね」
ハレナの言葉に、ヨアは食べ物を運ぶ手を止める。
「少なくとも、マグナがソルアラを奪おうとするのは間違いないでしょう。次の会談で話をまとめられるとは思えません」
「陛下は、出向いても良いのでしょうか」
出向いても良い、とは?
決まっている。
ハレナは、陛下の命が狙われる可能性はないのかと問うている。
「良くはないでしょう。しかし、陛下以外に協定を締結できる者はいません。宰相も外相も当てにならないので」
「あなたがいるではないですか。本当に、戻る気はないのですか」
その質問には驚かされた。
ヨアの戻る先なんて一つしかない。
四年前に去ったといいう、王家だ。
「現時点では、王家に戻る気はありません。私が必要とされるのは、魔王封印、あるいは女神復活の際のみです」
きっぱりと言い切ったことに、ハレナは残念がっているようだった。
「私は、あなたは王であるべきだと思います。あなたほど才学に富む人はこれまでに出会ったことがありません」
「買い被りすぎでしょう。私にできるのは、語学と策略と弁論だけです」
「それだけできれば素質は十分に思えますが」
「まさか。大きな欠点があるでしょう」
「それはなんですか?」
「何だと思いますか?」
しばし沈黙が食卓を覆う。
レイも考えてみることにした。
一見無敵にさえ見えるヨア――もとい、ルナ・ソルアラの欠点。
身勝手なところ?
それとも秘密主義なところ?
常に貼り付けている作り物めいた笑みは、欠点だろうか利点だろうか。
「自己評価が低いところ、ですかね。先導者にとって弱気を見せることは弱点になり得ます」
ハレナの視点もなかなか鋭い。
「痛いところを突いてきますね。それも一つかもしれません」
「あなたの答えは?」
「利己的であること」
レイの予想が掠っていたことが若干嬉しかったけれど、直後疑問が浮かぶ。
人間なんて誰しも利己的ではないか?
わざわざ自身の欠点として挙げるほどのことではない気がする。
「それはあなたの欠点ではありませんよ。人間の性というものです」
ハレナも同じことを思ったようで、返ってきた答えに笑ってみせた。
だがヨアは納得していないようで、ゆるゆると首を振りながら、しかし何も言わなかった。
これ以上踏み込むべきではないと判断したのか、ハレナも黙ってしまった。
しかしレイはというと、考える度疑問が浮かんで仕方がなかった。
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