第24話 疵瑕
「――大きな欠点と言えるほどあなたが利己的だったことってありますか?」
聞いた。聞いてしまった。
夕食後、ヨアが部屋で休んでいるときに。
「…その話、まだ続けるんだ?」
さすがの彼も苦笑いを浮かべていた。
雰囲気的に、あまり人としたくない類の話なのだろうな、とは思った。
自分と向き合うことも、弱さを人に晒すことも疲れるから。
まして、いつも笑みを貼り付けて不敵にみせている彼なら尚更。
でも、コンプレックスを一人孤独に抱え続けることだって、同じくらい疲れるのではないか。
「俺は、自分の目的のためなら他人も利用する。レイだってサンズだってそうだよ」
「私は、あなたに雇われたことも、友達と呼ばれることも、嫌ではありません」
「あれ、最初嫌がってなかったっけ?」
「今はむしろ感謝しているところです」
「結果オーライじゃん」
もしかすると、これが本音なのかもしれないと思った。
傍から見ていると、彼の突き進む力には誰も敵わないように見える。
周りを置き去りにして、遠く未来を見据えて、自分だけを信じて。
しかし、彼は愚かではない。
疑うことを知っている。
いくら知恵者だろうと自分の知は、決断は、不確かなものだと知っている。
「俺は、背負うべき責務をサンズに押し付けて逃げた」
まるで、何か重大な罪を告白したかのような、しかし出来るだけ雰囲気を重くしないような顔を浮かべていた。
そう、彼の顔に笑みはなかった。
「前に、ステータスが嫌いだって言ったの覚えてる?」
「はい、もちろん」
「あれも結局は、逃げの口実なんだと思う。窮屈な家柄に生まれた自分が、それを拒むに都合の良い言葉でしかない」
――なるほど言いたいことはわかった。
要は、王家の長男に生まれたに関わらず、本来負うべき役割から逃げたことに、そしてそれによる影響をもろに受けたサンズ王子に、負い目を感じている訳だ。
理屈はわかったが。
「じゃあ例えば、今再び十五歳に戻れると言ったら、王の道を歩むんですか?」
そんなわけないだろう。
そんな、過去の努力を無碍にするような選択を、選べるはずがない。
現に、問いを受けて彼は大きく首を振った。
「そういう世界があってもいいけど。俺は、その道は選ばない」
「じゃあ、後悔したって意味ないじゃないですか」
「そう、だね。うん。確かにそうだ」
レイの言葉を噛み締めるように、彼は何度も頷く。
それから、ようやく顔に華やかさを取り戻して、こちらを向いた。
「ありがとう。背中を押してくれて」
「いえ。私の言葉で良ければ何度でも」
くよくよしている姿は彼には似合わない。
別にそういう時があっても良いとは思うけど、また立ち直って歩き出してほしい。レイ自身がそれを望んでいるから、別にそのための手助けならどうってことない。
「そんな大層なことしてないって思ってるでしょ」
ニヤリと笑ってレイの心を見透かしたかのように言ってくる。
だって実際大したことじゃないし。
レイの方こそ、一人では騎士を辞める覚悟も計画も持てないような、人任せで利己的なだけだ。
「レイは普段あんまり喋らないから、こういう時にかけてくれる言葉が心に響くんだよね」
「…そういうものですか?」
「そういうものだよ」
自分のことを偉いとは決して思わないけれど。
大事なことは言葉にしようと心に留めた。
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