第32話 巡り巡る
城の隅、黙々と仕事を片付けながら、ヨアは頭を休みなく稼働させる。
悪い噂が立った時点でなんとなく、嫌な予感は感じていた。
まもなく大量の雑務を押し付けられてほぼ確信した。
――政治から隔離されている。
なんだよ。そっちが政策会議に参加しろと言ったくせに。
乾いた笑い声が洩れる。内心では、面白くないなと思いながら。
今日、マグナ協定へ向けた最終会議が開かれた。
予定通り、平和的な条約を結ぶことで話はまとまったそうだ。
協定会談の参加者は、陛下本人とネブラ外交長官、そしてサンズ王子。
政治勉強のためにサンズを参加させるとしたらしいが、馬鹿かと言ってやりたいくらいだ。だったら普段の政治会議に参加させた方がよほど勉強になるだろうに。
疑えば疑うほどキリがない。最善を探せば探すほどキリがない。
国境が開いて紛争が始まって、言語の解明が進んで混乱が落ち着いた当時、マグナはソルアラを丸ごと取り込みたいと申し出た。だが王国側がそれを拒否した。
だから平和的条約を提案することになった。向こうに譲歩させるためいくらかマグナ側に有利な条件も作った。
使いを送り交渉を繰り返し、今年になってようやく直接会って判を押すところまでまとまった。――表向きでは。
先日レイが見つけてきた密通の手紙。あそこに書かれていたのはソルアラに関する質問がほとんどだった。
既に国に関する情報はあらかた向こうに渡っているようで、その補足説明を尋ねる内容だった。
あの後手紙は元の位置に戻してもらって、様子見を試みたが手紙の隠し場所はその都度変えているようで、読めたのはあの一件のみだ。
ウェヌムとネブラが平和的に話を進める?そんなわけない。単にマグナに勝てないと察して自身の安全を確保しようとしているだけだろう。
彼らの予定通りに行けば、ソルアラは王国ではなくなる。むしろ、表舞台でマグナがまだ本性を隠しているところを見ると、きっとソルアラは喰われておしまいだ。それではヨアやレイ含め国民の安全は確保されない。
考えろ。考えろ。相手はどう動く。自分はどう動く。
考えろ。
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