第67話 ただ、待つ

 山に結界が張られ、ルナたち一行との連絡が途絶えた。

 砂漠の民たちは結界について調査に努めているが、何やら複雑な術で組まれているらしく解除には時間がかかるとか。


 レイはと言えば、城の隅――ヨア・セブンスの部屋で、ただを待っていた。


 十時過ぎになって、開け放っていた窓からルートがひょいと滑り込んできた。


「マーチェンプトとの会談はどうなってる?」


 ルートは今、魔力を温存するため魔術での情報収集を控えている。

 数日前から城下町に泊まって、時折こっそり城に忍び込んでは、情報を仕入れていたようだ。


 斯々然々かくかくしかじかの事情を説明すると、彼は不満そうに顔を曇らせた。


「今、団長と宰相、ハレナ様と王太后殿下が会議を行っています。」

「あれ、ウェヌムもいるんだ?」


 逆に、いないと思ったのか。王がいなくなった盤面で今こそ権力を駆使するところだと思うのだが。


「え、だって、あの結界張ってるのもウェヌムなんでしょ?」

「消去法ではそうなりますが…それ、砂漠の民は知っているのでしょうか」

「知らないなんてことあるかな。解けなくても調べるくらいなら誰でもできる」


 だとしたら、今開かれている会議は茶番じゃないか。いや茶番でもない、のか?生産性がないとは言い切れないが…。


「宰相を咎めに行きますか?」

「いいよ、行かなくて。レイはただでさえ万全じゃないんだから、体力温存しておいて。」


 肩はこれでも良くなった。痛みはもう無いし、軽い運動なら日常的に行っている。それでも、数週間に渡ってまともに身体を動かしていなかったツケは大きい。


 ルートがこちらに背を向け再び窓枠に足をかけたので、


「何処か行くんですか?」


と声を掛けた。


「ちょっとね。会議で何話してるのか盗み聞きしてくる」


 なんてことだ。

 もしかすると彼は盗賊か何かだったことでもあるのかもしれないとすら思う。城の部屋だって、城内図も何も見ずに屋根をとんで渡ってくるし。


「お気をつけて」

「大丈夫、バレても身元なんてないから」


 余裕の笑みを浮かべて、彼は窓の向こうの夜に消えた。

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