第68話 焦る心
ハレナは苛立っていた。
守るべき陛下の安否が知れないこと。
来たる明日がもう数時間先に迫っていること。
ぐるぐると同じことを繰り返させられているこの会議にも。
すべての元凶がウェヌムにあり、何もかも彼の手のひらの上なのだろうことを知りつつ、打開策を踏み出せないことも。
――ウェヌム・トレード。
父母双方、由緒ある城の官の血筋。
彼は二歳から十歳頃まで、砂漠で育てられた。お父上の教育方針だそうだ。
元々、好奇心の強い子だった。
地面を這いずり回っていた頃からあちこち冒険し、物心ついてからは、乳母にあれはこれはと聞いては困らせていたとか。
言葉を知り、ある程度字が読めるようになってからは、何も言わずとも自分であれこれ始めた。
集落に設けられた蔵書庫で史を学び、政治を学び、実際に市場に赴いて経済を学び、砂漠の警備隊で武術を学び、魔術を学んだ。
武術は、あまり才に恵まれなかったようだ。
訓練を嫌がっては蔵書庫に隠れ、警備隊の教育係に連れ戻される光景もしばしば見られた。
しかし、魔術は素質の塊だった。
通常の子よりも多い魔力量。初めて魔力を扱ってから、基礎的な術を使いこなすようになるまで、一週間とかからなかったそのセンス。
不自然なほど自然に、砂漠の文化に溶け込んだ。
彼は、結界術も扱えたはずだ。
あの技量となれば、簡単に解けない術式であることも、本人がある程度離れても強度が安定していることも、納得できる。
「――そろそろお開きにしませんか」
ダラダラと続けていた議論の中で、ダウン団長が声を張り上げた。
「進軍するにしろしないにしろ、いま最優先に対策すべきは魔王復活です。配軍に関しては事前に報告した通りです。まずは城の防衛を。」
議会の参加者は顔を見合わせ、そこでウェヌムもようやく「わかりました」と首を縦に振った。
だから、さっきからハレナがそう言っていたのに。
彼が、花畑を取るべきだとか言ってうやむやにして、それを何時間続けてきた?
ダウンが言ったら従うのか。始めからそうしてもらうんだった。
差別的な振る舞いには不満を覚えるが、城政において自身が部外者であることはハレナもわかっていたので、表には出さないでおく。
「皆さんは安全なところで待機を。私は、騎士たちを先導して参ります」
ダウンが会議室を出ていく。ちらほらと会議の参加者たちが席を立つ。
時計を見る。
秒針は待ってくれない。
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