第50話 強く、
――これが、寂しいという感情だとしたら。
壇上で孤高に戦うレイは美しかった。
むしろ今までなぜ人の目を惹かなかったのか疑問に思うくらいに。
誰もが彼女を見ている。魅せられている。
騎士団は、隠れていた新たな光を見つけた。
――利己は押し殺せ。
全ては輝きを輝きのまま放つために。
四人の騎士を退かせて、レイは剣を鞘にしまう。
エンから始めて、カイを誘って、更にもう二人追加した。
四対一で勝てれば実力は明白だろう。これ以上相手を募ってもキリがない。
本音を言えばもう少し増やしてスリリングを味わって見たい気もあったが、壇上が狭くてやってられない。
自分も自分も、と押し寄せる輩は無視して、エンに微笑んで見せる。
「敗者復活戦は、これでおしまいにします」
「これはもう疑いようなくレイの勝ちだね。約束通り、次の会戦では王国側を全うするよ」
「もし裏切ったら…」
許さない、と言おうとしてはたと声を止める。
これじゃ弱い。
「…殺す?」
考え込んだレイに、からかうようにエンが笑う。
そんな残忍なことはしたくない。仮にも仲間である人を。
「私が、死ににいかなければならなくなります」
早急に事を進めなければならなくなる。ルートの手も必要になるかもしれない。
死は必須ではないが、腹は括らなければならない。
「殺しをするのはエン先輩の方です。責任持ってください」
直接手は下さなくとも。
裏切られて無茶を強いられてレイが命を落としたら、それはエンのせいだ。
「…わかった、覚えておく」
お互い殺したくも殺されたくもないのだ。そこは誠実に、余計なことはしないと了解しておきたい。
「エンさん、ダウン団長呼んでましたよ」
他の騎士に呼ばれた彼の背を見届けた後、レイは渡り廊下を見上げる。
先程までそこにルナとハンクがいた。たまたま通りがかったのだろう。声を掛けたかったけれど、戦っている間にいなくなってしまった。
まあいい。どうしても必要なら自分から赴けばいいのだ。
それに、今彼らと話をしたら何かが切れてしまうような気もする。
強く在らねばならない。
超俗的で、飄々としていて、何があっても自分がなんとかする、と笑っていられるくらいに。
「レイ、俺とも対戦してくれよ」
「何だって、俺も俺も」
だから、怯えている場合ではないのだ。
「いいですよ」
レイは再び壇上に上がった。
「――全員、整列!!」
休憩も挟みながら四対一を何戦か勝ち越した頃に、戻ってきたエンが手を叩いて騎士たちの動きを止めた。
雑然としていた訓練場が秩序を取り戻す。
皆の視線が集まったことを確認して、副団長の指示が通る。
「次の会戦の場所は北平原だ。ダウン団長から、配置の指示をもらった。聞いた者から出発の準備にかかれ。」
はっ、と威勢の良い返事が響く。
空気が引き締まっているのを感じる。当然、緊張もするだろう。次の戦いが関門になることは誰だってわかっている。
自身の配置を聞いた騎士たちが様々な顔で兵舎に戻っていく。
落胆、安堵、恐怖、覚悟…。
レイは、前線配置だった。
「頑張るぞ、レイ」
同じ隊列の先輩が声を掛けてくる。
ぬけぬけと。
「逃げたら許しませんからね」
一瞬だけ彼の顔が引き攣って、すぐに「まさか」と笑った。
本当はこうやってひとりひとりに釘を刺していきたい。
でもそんな時間もない。
だから、エンに声を掛けたのだ。ウェヌムが仕掛けた回し者の中で、核となっているという彼に。
今レイにできるのは力で牽制するくらいしかないが。
まずは戦いに勝つ。城を落とさせはしない。
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