1 自分の歳も数えていられない

第4話 初仕事

 さて。

 美顔を貼り付けた主に連れられて、件の塔の麓まで来たはいいが。


「…鍵が掛かっているね」


 門は開いていなかった。

 少しガチャガチャと弄ってみるが丈夫な錠前がついている。無理に壊すのは気が進まない。

 周囲を覆う塀は、身長を優に超す程度には高い。

 

 こういうとき、騎士は主をエスコートすべきなのだろうか。


「飛び越えますか?」

「そうだね、そのほうが早いかも」


 レイは先に安全そうな足場を踏み切って塀の上に飛び乗った。

 ヨアは見た感じ軽そうだから、彼一人引っ張り上げるくらいならレイにでもできるだろう。


 手を差し伸べた後で、自分は相手に失礼していないか不安に思った。

 

 しかしそれは杞憂で済んだらしい、


「紳士だね」


とヨアは軽く笑った。

 そして差し伸べられた手を借りつつ、ひょいと塀を乗り越えてしまった。


 掴みどころのない人だと思っていたけれど、思っているよりはフットワークの軽い人なのかもしれない。


 ついでに、見た目がヒョロい割には運動神経も悪くないことがわかった。

 人は数回喋っただけで判断してはいけない。良い学びを得た。



 少し周って、塔の入口へ。

 門が固く閉ざされていた以上、扉が閉まっているのは予想できたが…。


 運が悪いことにどうやら魔術による結界が張られているらしい。雷電を纏った薄い膜が扉に張り付いている。


 レイは砂漠の民ではない。

 よって魔術は使えない。

 つまり、この結界は解けない。


 砂漠の民の他にも王族は魔術を使えるらしいとはいえ、ヨアも直属の王族ではないわけだし、見込みはない、はず。

 

「もしもしー!開けてくれませんかーー」


 かの美男は塔の上に向かって声を上げている。

 よく通る声色までが透き通るようで、大抵の女性は名を呼ばれるだけで蕩けてしまいそうだ――勿論レイは例外だが。


「これ無理やり入ってもいいかなもう。」

「逆に聞きますが、入れるんですか?」

「力っていうのは便利なものだよ」

 

 質問の答えになっていない。

 が、おそらくその気になれば入れるということだろう。


 まさか、魔術を使えるとでも言うのだろうか。


 でも、確かにそうか。直属の血筋でなくとも、祖を辿れば繋がっているわけだし、扱えてもおかしくない。直属にしか使えないのは、魔を滅する聖なる力の方だ。


「少し待った方がいいかと。時間はまだありますし。」


 それに、いきなり力技でも相手に引かれるだけだ。まさか彼も相手に喧嘩を売りたくて来たわけではないだろう。


「それもそうか」


 ヨアは再び、軽く笑ってみせた。

 

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