壱 自分の歳も数えていられない

幕間 隅の部屋にて

 レイ・アクア。国家騎士団城下町支部では珍しい女騎士。


 幼き頃に両親を亡くし、南西の村の叔父に引き取られる。彼は元国家騎士団長で、卒団後は地元で剣術師範をしていた。


 六歳で叔父が教師をする士官学校に入学し、四年間武術を習う。 


 卒業後、十歳、叔父より国家騎士団城下町支部への推薦を貰う予定であったが、直後にその叔父が体調を崩し、入団は断念。

 翌年叔父は息を引き取る。


 二年後、一般試験の受験資格である十二歳となり、国家騎士団城下町支部に入団。


 三年間の見習い期間を経て十五歳、成人と同時に平騎士に昇格し、現在、十八歳。一騎士として仕える。



 ――が、今なお活躍が評判になることはない。


 はあ、くだらない。

 騎士は男性がなるものだなんて誰が言ったんだか。


 騎士と言っても仕事は時と場合によって千差万別だし、武術が秀でれば、力があればなんて単純な話ではない。


 その点レイは武術の腕も城下町支部じゃ中の上、恐らく国の各地から騎士を集めて比べたら上位三十パーセントには入る程度には強いはず。


 かつ戦略的戦いが出来る。常に冷静で、的確に弱点をつける。

 これが出来る人がなかなかいない。


 折角手に入れた可能性の塊を、なぜ女性だからというだけで潰してしまうのか。


 性別以外の話だってそうだ。出自とか、外見とか、人は生まれ持つステータスで勝手に出来る出来ない決めつける。


 その点現在の団長殿は優秀だ。ここでレイを専属騎士に選ぶのも納得できるし、むしろ最善だと言える。


 顔を見たことのない者も多い、正体不明の引き篭もり。

 その若い副外交長官にわざわざ専属騎士をつける価値を知る者がいるだろうか。仕事を与えられた本人でさえ定かではないだろうというのに。


 ヨアは息を吐いて、団長殿に授かった履歴書を机に放る。

 たとえ生まれ故郷であれど、この国はどうも好ましくない。愛着はある。それだけだ。

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