第3話 初対面

「初めまして、レイ・アクアです。ダウン団長に推薦されあなたの専属騎士を務める運びとなりました。」

 

 挨拶のため、レイが城の端の方にある彼の部屋を訪れると、例の引きこもりは盤上遊戯を並べて遊んでいた。

 外交官にしては妙に広い部屋の、窓際に置かれた机上で、一人で。

 

 格好は比較的ラフだった。シャツにズボンに、軽くストールを羽織っている。どれも良質な素材を使っているようだ。見るだけでわかる。


 ただ、服装なんて関係なく基盤が破壊的だった。目が合うだけで多くの女性を虜にしてしまうような外見だ。


 スラリとした長い手足に白い肌、目鼻も立っていて、気品がある。

 加えて、ソルアラの王族特有の赤毛と、太陽のような黄金色の瞳が美しさを際立てる。

 この城内には美しき王族の血を引く官が多い。彼もその一人なのだろう。


 まるで作り物みたいな彼――ヨア・セブンスは、レイを見ると口角を上げてきれいな笑みを作った。

 そして立ち上がり、右手を差し出す。

 

「引き受けてくれて嬉しいよ。俺はヨア・セブンス。よろしく。」


 小さく頷いて手を取る。指の長い綺麗な手だったが、ペンだこができていることに気がついた。少しだけ好感度が上がる。


「さて。専属騎士をしてもらうにあたって約束してほしいことはふたつ。俺の命を守りつつ自分も生き延びることと、仕事について容易く人に話さないこと。最低限君に求めるのはそれだけ。」


 それくらいならお安い御用だ。むしろそれが本業とも言えるから、出来なければ騎士を名乗る資格はない。


「一つ付け足すなら、遠慮しないこと。俺の前では男も女も、身分の高い低いも関係ない。一対一の個人として、仲良くやろう。これは、強制はしない。」


 …これは、どう反応したものか。

 

 もしかしてこの人は、騎士としてレイを雇ったわけではないのかもしれないと思った。

 護衛は口実で、他になにかやりたいことがあるのかもしれない。やってほしいことがあるのかもしれない。


 しかしそれを受け入れるのは少々難しい話だ。

 仕事は仕事、個人は個人。レイは今回仕事としてここに来たのだから、あまりその垣根は越えたくない。


 レイは呆然とその美しい顔を眺めながら、このミステリアスさも普通の女性なら喜んで受け入れるのだろうか、とぼんやり考えていた。


 こちらの懸念を気にするも様子なく、ヨアは言葉を繋げた。


「さて、早速なんだけど、明後日から出掛けるから護衛を頼まれてくれないかな?」


 城から南西の方角に進み、花畑の綺麗な村を抜けたさらに先に、塔がある。

 本来は、かつて敵対していた砂漠の民を監視するために国が設置したものだと聞く。

 しかし砂漠の民とも友好関係を築く今となっては、ただの廃墟と化している。


 人が立ち入る理由もないはずだが、どうやらそこに棲み着いている人間がいるらしい。

 しかも、ずいぶん長い年月。ここ数十年の話ではない。少なくとも数百年以上前から、塔にいる人の噂はあったとか。

 

 その調査――というかヨア個人がその人に会いたいらしい。まあ、外交官がわざわざそれを調査するはずもない。

 やはり予想は当たっていそうだ。きっとこの護衛仕事は、公より個人的なものに近い。


 少し望まない事態になる未来が見えるが、断れるはずもなく。

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