第2話 ソルアラ王国
ここはソルアラ王国。
光を司る女神ルクスへの信仰のもと、発展してきた宗教国家だ。
この国は大きく五つの地方と民族にわかれている。
中央の平原に
自然豊かなこの国で、人々は信心深く、世界は永きに渡り平安であった。
しかし、その平和も長続きはしない。理由は明白、この国は呪われている。
大昔――まだここに王国がなく、女神ルクスが直接人々を統治していた頃。
地の裏側より魔が這い出てきて、後に砂漠の民と呼ばれる者たちに魔力を与え、唆し、魔獣を引き連れさせてこの地を支配しようとした。
女神の眩しき力でどうにか魔を封印することは出来たが、完封とまでは行かなかった。
地上には魔の邪念が残り、およそ五百年に一度の周期で一人の砂漠の民に取り憑いては復活を繰り返すようになってしまったのだ。
先の戦いで力を使い果たした女神ルクスは、この地を去った。天界より力を蓄えながら世界を見守ると。
そして女神は二つの力を残した。
ひとつは彼女の扱っていた聖なる力。それを側近に託し王として立て、王位を継ぐ者に代々受け継がれていった。
王にしか扱えない力、かつ、女神より授かった唯一の魔王を倒す術。
人々が王族を敬い従う大きな理由である。
もうひとつが、国土の封印だ。当時魔族の
これ以上魔族の被害を広げないためでもあった。
魔の残骸が人々に脅威をもたらすこの世界で、女神が安定した光を与えるためでもあると言われた。
具体的には、国境に結界を張り、北の雪山は吹雪、森は暗闇、砂漠は砂嵐、海は大波で閉ざし、あらゆるものが出入りできぬようにした。
国境を越えようと冒険して帰ってきた者はいない。
こうして、この王国は独立して発展を遂げてきたのだった。
かつては分裂していたこの国も、王族の努力の甲斐あってようやく統一されつつある。
ところが一転、今から二十年ほど前、突如この国の結界が消えたと、四方の民から報告があった。
丁度、その代の新たな王子が誕生したと同時だった。
当初は、王国内はもちろん隣接する外国側も混乱していた。
特に、国境近くに住む山の民は長く紛争を続けていた。
王家はこれを支援しながら、早急に相手国への連絡に努めた。
現在は、北に広がる山の向こう、山麓の谷間をまっすぐ北に抜けていった先にある、マグナという名の連邦国との外交が中心となって進められている。
恐らくそう遠くない未来に、王が直々に握手を交わしに出向くだろう。
向こうの首相が本心からの笑顔で迎えてくれるかは些か疑問に思う部分はあるが。
さて。
現在王国と友好関係を持つ砂漠の民は、魔術を扱うことのできる種族だ。
平均寿命は百五十年ほどと長寿――一般族は基本的に六十年が平均寿命といわれている――である。成年の半分――十五歳を迎えたと同時に身体に魔力を宿し、成年、三十歳を迎えたときの魔力の器が最大値となる。
三十歳、がキーワードだ。
魔王復活の際、魔王の魂は決まった砂漠の民の身体にしか取り憑くことはできず、その人が三十歳を迎えたと同時に魔王がこの地にやってくるというのが通例であるから。
前回の魔王の生まれ変わりはおよそ五百年ほど前に現れ、例の如く大きな災いとなる前に王家によって封印された。
そして今から二十九年前、砂漠の民の長に新たな子が誕生したとき。とある魔術師が魔王復活の予言を告げた。
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