暁の王子
竜花
0 ある騎士ある国ある外交官
第1話 プロローグ
「――レイ、ある人の専属騎士になるつもりはないか?」
団長に話しかけられ、レイは素振りの手を止める。
「…私ですか?」
名指しで話しかけているのだから当然といえば当然だが、まさか自分に特別な役職を与えられる日が来るとは思っていなかった。
レイは女だ。仮に腕が立とうと、公の場で偉い立場を持つことに異議を唱える者も多い。
「条件は、ある程度腕が立って、口が堅くて、頭が柔らかい平騎士であること。それ以外は無いとさ。折角お前は腕がいいから、それを生かせるなら生かすべきだろう。」
つくづく思う。この団長は本当に人がいい。洞察力が高く、役割配置が上手い。武術の腕も良く、人望が厚いから誰一人と頭が上がらない。
騎士の手を欲しがっているのは副外交長官――平騎士のレイから見れば割と高い立場のお方――らしい。
名前はヨア・セブンス。
正体不明の引き篭もりと噂されている人だ。
「あまり良い噂は聞かないかもしれないが…きっとレイが思っているよりずっと彼は賢い。きっとやりやすいはずだよ。」
当然、賢くなければ若くして副外交長官なんてできやしないはずだけど。
でも、部屋に篭もっていて仕事ができるのかも疑問に思うところである。
実際、騎士たちに言わせれば、多くがその姿を見たことすらないとか。レイもその一人だった。
平騎士たちは基本、城内の警備を仕事にしている。門だとか、城壁だとか、あるいは上官たちの住まう部屋の側だとか、内外問わず彷徨いている。
そのどこにも出没しないとなると、本当に生きているのかすら怪しいほどだ。
実は見かけているけど気付いていないだけなのだろうか。下官ならともかく、上官の顔は比較的頭に入っているはずなのだが。
ところが、使用人たちに言わせてみれば、ヨア・セブンスはなかなかに好評だった。
その証拠に、彼に届け物をする枠は毎度競争になるらしい。
身の回りの世話は決まった上級使用人のみしか行えないため、郵便配達は下級使用人にとっては接触する絶好の機会なのだ。
多くは好奇心が理由だろうが、応対態度の良さからリピートを望む者もいて、中には彼に会うためだけに郵便係を所望する者すらいるとか。
…こちらとしては、良い方の噂を信じることしかできない。
折角おいしい話をもってきていただいたのだから無碍にはできまいし。
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