12 夜明け前がいちばん暗い

第79話 明くる日

 ――魔王の解放は達成した、らしい。


 ルナが目を覚ましたら、ソルアラが元に戻っていた。

 なんとなく息苦しい空気は浄化され、異変を感じさせる妙なざわめきも止んで、眩しい昼間の世界がルナを迎えた。


 でも、全てが片付いたわけではない。

 そう。


「マーチェンプトは国に帰ったって……?」


 ええ、とハレナが苦笑いを浮かべて頷く。


 ウェヌムは、砂漠の民の手により魔力を封印された状態で、城の医務室に監禁してあると。


 だが肝心のマーチェンプトには逃げられた。


「ウェヌム・トレードは黙秘を決め込んでいます。どうしますか?」


 こうなったらもう、ウェヌムに協力を仰いで、せめてマグナの諸問題を丸く収めてもらうのが一番手っ取り早い気がする。


 騎士たちは立派に城を守ってくれた。今だってなお、魔獣の残党は平原にごろついている。

 今はそっちで手一杯で、マーチェンプトを成敗しにいく余力もない。


 城は守り抜いた。王も王子も騎士団長も健在で、民もついてきている、なのに。


 きっと余裕の無さのせいだ。

 全く、優勢には及ばない。


「私が直接話に行きます。彼の処遇とマグナの対応についてはその後で決めましょう」


 席を立つ。

 ほんの少し視界が眩む。

 疲労がまだ回復しきっていない。


「どこか身体に痛むところでもございますか」


 しまった、顔に出ていたようだ。

 慌てて笑みを浮かべ取り繕う。


 こちらの素性を知るハレナ相手にはもうあまり意味がないけれど、習慣を崩したくない。


「昨夜、魔力を使いすぎたようです。大したことはありません。」


 魔力不足で倒れた翌朝の感覚に似ている。

 魔王を解放して――女神がこの身体を離れてから、まだ数時間しか経っていない。


 でも、休んでいる暇は、ない。


「もしよければ、同伴して頂けませんか?」


 今、ルナの側にハンクはいない。

 魔王戦の際はやむを得なかったものの、流石に手負いの状態で護衛をさせるわけにはいかないから外した。


 人と交渉するときに忌憚なく側における護衛として、最も適任なのは彼女だ。


「よろこんで、お供します」


 神話以来の呪縛を解かれた民の族長は、嬉しげに微笑んだ。

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