11 闇は幾度となく光を覆い隠すが
第74話 闇の境界
全ての魔獣を正面突破していたら、いくつ命があっても足りない。
レイたち一行は、必要に応じて隠れながら、ひとまず教会近くの森まで到達した。
木の上に登って様子を窺う。
「うわ、サーネンクも湧いてやがる……。どうしたもんか、扉が見えねえ」
そこにたどり着いてからが鬼門だった。
扉から出てきたばかりの魔獣たちが溜まって壁のように立ち塞がる。
まず定番のウォー。
次に、モーファという小さな蛾の魔物。
毒性の鱗粉を振りまきながら群を成して視界を阻んでくる。
最後に、サーネンクという名の中型ドラゴン。
蛇のように長くしなやかな身体を持ち、体格はあまり大きくないがその分動きが素速いので厄介だ。
森などのジメジメした場所によく出現し、その牙の毒は人を呼吸困難に陥らせる。
「順番に行く。先にサーネンクを倒してから、扉まで突っ切る。」
「行けるか?」
「扉の前についたら時間稼いでほしい」
「了解、陛下は動かないでくださいね」
まずハンクが地面に降りる。
一斉に魔獣たちがそちらを向いた。
姿勢を低くしてモーファ群の突撃を躱しながら、まずは近場のウォーを対処。
サーネンクが地を這ってウォーの陰に紛れながら、ハンクにジリジリと近寄る。
その首が、レイのいる木の真下まで来る。
「気をつけて」
隣でルナが囁いた。
レイはそれに微笑みで返して、木から足を離す。
身体にかかる重力で加速した剣が、吸い込まれるように、サーネンクの首をめがけて垂直に落下していく。
シャア、とサーネンクが牙を剥こうとした時には既に、剣はその頭を貫通して、地面に突き刺さっていた。
余力を尽くして抵抗したようだが、やがて力なく地面に横たわる。
急所さえ抑えてしまえば牙など怖くはない。
ウォーが続けて襲い掛かってくるが、地に突き立った剣を抜いて迎え討つ。
一、二、三。
とりあえず側にいたのを片づけ、扉のある方を向く。
依然その姿は見えないが、盤面はスッキリした。
「行けるか?」
再びハンクが尋ねた。
「離れてて」
一度剣を鞘にしまい、両手の指を絡めて魔力を込める。
風を起こす。
イメージはテラドラゴンの吐息。
渦を巻け。邪魔者は吹きとばせ。道を開けろ。
木々の騒めき、魔物たちの悲鳴とともに、空気が鼓膜を轟かせる。
目も開けていられない嵐の中、一歩一歩、前へ進む。
感じる。
禍々しい気配を発する大きな物体。
魔力の開放をやめ、空気の振動が止む。訪れた静寂の中レイはそれに近付いてゆく。
――扉だ。
半開きになっている。
その向こう側にいる
夜の海みたいな、吸い込まれてしまいそうな、空虚に満ちた、どこか寂しい侘しい、そんな世界を垣間見た。
「――レイ!早くしろ!」
ハンクの声で現実に引き戻される。
左腕しか使えない彼が背後で奮闘している。ルナも魔術を使って応戦しているが、余計に魔力を使わせるわけにはいかない。
ルナに授かった、レイの持つものとは異質な、ピカピカの魔力を使う。
王家由来の力を使うのは初めてだったが、妙に手に馴染んだ。
手元から発する力が、魔を浄化していくのがわかる。
光を纏った手で、扉を閉める。
蔓のように光が廻り広がって、扉を覆い、周囲が明るくなる。
辺りの闇が霧散し、魔物たちが跡形もなく消え去った。
「今、ハレナ様も扉を閉じ終わったって」
ルナが木の上から地に降りてきて言った。
あとはルートだけ。
だが彼のことだ、そう時間はかからないだろう。
「先に始めちゃおう」
教会はすぐ側に。
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