第7話 塔の住人

「砂漠の民だけど、訳あって不老の身体を持ってるんだ。実年齢はもう千歳は超えてる。

さっき彼が言った通り、過去に二度、魔王戦争を体験してる。今は国にも魔族側にも所属していない。」


 塔の住人――ルートはそう自己紹介をして、軽くお辞儀をしてみせた。


「さて。国のお偉いさんが、僕ごときに何の御用でしょうか。」


 正確にはヨアは私的な用事できたのであって国の遣いとして来たわけではないらしいが。


 彼は、それには触れずに淡々と要件を告げた。


「次の年明け、魔王が復活を遂げるという予言があります。それについて貴方がどのような見方をしているか、それから魔王に対抗するための方策を教えて頂けませんか?」


 千年という年月は、百年も満たずに死ぬ一般族にとっては長い。長寿の砂漠の民でさえ六人は生まれて死ぬことが出来る年数だ。

 それだけ経てば、伝承も不確かなものになる。

 魔王との終わらない戦いの詳細を語れる者はそうそういない。


「まず言えるのは、魔族を倒す手段は王家由緒の魔法しかないってこと。どれだけ手練の騎士たちを揃えようと、時間稼ぎにしかなりません。」

「逆に言うと、時間稼ぎにはなるんですね?」

「まあ、多少の犠牲を覚悟すれば。」


 王家由緒の魔法。女神が人間たちに残した聖なる力。

 この地に残る、魔族に対抗する唯一の手段。

 王族がこの国を統率できているのも、この力があるからとさえ言える。


 これがなければ今頃私たちは生まれていなかっただろう。小さな王国はとっくに滅亡していた。


「それから、今回の復活について僕の見解を言うと、危機感を覚えているってところです。

そもそも、女神がこの地を閉ざしたのは魔族の被害を国外に広めないためと言われています。

けれど今回は結界が外の国を守ってくれない。魔族がどう動くかも、女神がどのように魔の手を食い止めるかも全く予想できない。

その上、今はマグナ連邦とのやりくりも忙しくて、あまり対魔族の策は進められていないのでは?」


 二十年ほど前、突如消えた国の境界。その謎も未だ解明されていない。

 女神が意図を持ってそうしたのか、それとも魔の手が迫っている証なのか。


 混乱が落ち着いてからは、ソルアラの北に位置するマグナ連邦との外交が進められている。

 マグナ連邦は面積も権力もかなり大きい、大陸で特に積極的に活動している国だ。


 当然ソルアラにも手を伸ばさないわけがない。

 自然豊かで平安で、対外戦争なんて建国以来一度も経験したことのない、世間知らずな王国。


「仰る通りです。だから私が勝手に彷徨うろついて対魔族のあれこれを進めようとしているところでした」


 ヨアの言葉には多少なりともびっくりさせられた。

 だったら初めからレイにもそう言ってくれればよかったのに。

 なんでわざわざ変人を演じるんだ。


「そこで、貴方にも協力していただきたいのです。消えた結界について、ついでに女神様が現状どのような状態でいるのかについて、調べて頂けませんか?」


ルートはしばらく、値踏みするようにヨアを眺めていたが、やがて小首をかしげてひとつ、問いを投げかけた。


「――貴方のゴールはどこですか?」

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