外伝 夜明けの二人

「これからどうしたい?」


 そう聞かれて、気高き女騎士は軽く首を傾げる。

 王子の肩書きを捨てた青年が薄く微笑んで彼女を見つめていた。


「俺はもう少し離れまで行って、ひっそり暮らすとするよ。君はもう俺の専属騎士じゃない。一緒にいる理由は、もうない。」


 確かに。彼らが行動を共にしていたのは任務の意味が強かったのだろう。

 互いの手を取ることを選びはしたが、目的を達成した今、手を離す選択がここにある。だが。


 青年は続きを紡いだ。


「強いていうなら、俺が一人寂しい思いをすることくらいかな。」


 からかうのはよしてほしいと騎士は思った。

 いつだってそうだ。何を考えているか、その言葉が本意なのか否か読めない。長くそばにいて相手を知った今でもわからないことがあるのに、そんな言葉を掛けるなんて、悪戯にしては酷い仕打ちだ。


 しかし青年が賢い人であることを騎士は知っている。意味もなく悪質な冗談なんてつかないことを知っている。


 だから彼女は、たまにからかい返してみることにした。


「それだけじゃないですよ」

「ん?」

「私が寂しい」


 青年の顔から笑みが消える。そこにあるのは驚きと希望で見開かれた瞳、そして喜びに赤く染められた頬。慌てて手で覆い隠すが、もはや遅い。


 意外な表情を見つけた騎士は、楽しくなって笑った。


「貴方が初めに言ったんですからね。」

「いや…ごめん、本気で受け止めてくれるとは思ってなかったから」


 二人の間で育まれたのは信頼だけではなかった。

 城で噂になったことはあったが、それが事実となればスキャンダル確実。雑念は時に目的を達成する邪魔となる。だから各々が胸の奥で殺していた感情だった。


 だがそれももう、隠す必要もない。


「ついていってもいいですか?」

「もちろん。これで寂しくないね、お互い」


 そう、お互い。二人笑い合う。そして歩き出す。

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暁の王子 竜花 @Root_nnla

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