世界は、生者と死者、魔法と非魔法、異なるはずの三つの世界が混ざってしまうというカオスの状態にあった。
8年前、神はそんな世界をリセットしようとしたのか、天変地異の大災害を起こす。しかし、大災害のあとも世界はカオスのまま。いったい神の目的は何であったのだろうか。 そんな大災害の後の世界で人々は魔術師たちが魔法を使い、復興が進んでいた。
舞台はフランス・パリ。
エリックの兄(フレデリック)は、弟を守るため、魔法を持たない者たちに攻撃魔法を使い、神の厳格なルールにより『天に召され』肉体も残さずに消滅した。
ハルは非魔術師だが生者と死者が視える。
ノアは誰にも言ってはいけない秘密・もうすぐ世界が動き出すことを知っている。
ロンはすべてを癒す特殊魔法が使える。
まだ小学生の幼い子供(幼馴染)たちのそれぞれで語られる胸の内と世界は優しさと悲しみに満ちていた。
感想:読み進めることで世界の謎が少しずつわかるようになっていて、そこに群像劇という形式が物語をさらにミステリアスにしている。
子供たちの生きる世界は、神のルールに厳格に支配されていて、たとえばどんなに非魔術師たちが暴力的で、魔術師たちに危害を加えようとしても、魔法を使えばそれだけで肉体が消滅してしまう。警察も裁判も情状酌量も一切ナイのである。
神が世界をリセットしなかったのは「マリア」を見つけたからではないか、と冒頭の部分で疑問が提示される。
マリアとは「この世界をきちんとあるべき姿に導いてくれる者」だそうだが、読んでいるうちに、小さな幼馴染たちのために「マリア様、どうか世界をお救いください」と祈りを捧げたくなる反面、いったいマリアとは?神とは?という疑問も深くなる。
オススメです🕊️
この世界は魔術師と非魔術師の入り交じり、魔術師はひとりひとり異なる《特殊魔法》が扱えます。
しかし、魔法の使用目的は善悪によらない。魔法扱いは神の定めたルールに従って、厳格に定められています。
どれほど善意に満ちた行い、人類のための行い、救いをもたらす行い。
それが何であろうと、魔法を司る神・ゼノ様のルールを破れば、強制的に《天に召される》。
《天に召される》とはどういう意味か?
《天に召される》と魂はどこへ向かうのか?
まだ幼い子どもを主軸に進んでいくストーリーは、あまりに無慈悲で、キャラクターたちの感情の発露も相まって苦しいほどに感情移入してしまいます。
魔法の設定、世界の秘された真実、検査の不気味さ、マリアの存在……。
魔法の世界でありながらも、リアリティある人間らしさの描写・文体によって引き込まれる本作。
ご一読をオススメします。
18年前の天変地異がもたらした破壊と再生の狭間で、人々の心に刻まれた魔法と非魔法の対立。その中で、少年エリックたちの旅路は、痛みと祈りが織りなす壮大な物語となっています。特に、ゼノの冷酷な支配と「tout guérir」という奇跡的な魔法の対比が、物語全体に深い陰影を与えているのが印象的です。ロンが非魔術師たちから「マリア様」と崇められる構図は、単なる癒しの象徴ではなく、人間の信仰や依存の危うさをも暗示しているかのようです。
旅の中で描かれる謎めいた《warlock》や、誓約に縛られた魔術師たちとの出会いは、善悪の境界線を揺さぶり、私たち読者の固定観念を心地よく裏切ります。医師リアムの視点が加わることで、魔法と非魔法の対立がさらに人間臭く、生々しく迫ってきます。マリアの象徴的な存在が、希望と再生の鍵として物語の中心に据えられているのも感動的です。
魔法と人間性、再生への祈りが美しく交錯する『Ave Maria』は、ファンタジー好き必見の作品となっています。