善悪の境界を揺さぶる祈りのファンタジー
- ★★★ Excellent!!!
18年前の天変地異がもたらした破壊と再生の狭間で、人々の心に刻まれた魔法と非魔法の対立。その中で、少年エリックたちの旅路は、痛みと祈りが織りなす壮大な物語となっています。特に、ゼノの冷酷な支配と「tout guérir」という奇跡的な魔法の対比が、物語全体に深い陰影を与えているのが印象的です。ロンが非魔術師たちから「マリア様」と崇められる構図は、単なる癒しの象徴ではなく、人間の信仰や依存の危うさをも暗示しているかのようです。
旅の中で描かれる謎めいた《warlock》や、誓約に縛られた魔術師たちとの出会いは、善悪の境界線を揺さぶり、私たち読者の固定観念を心地よく裏切ります。医師リアムの視点が加わることで、魔法と非魔法の対立がさらに人間臭く、生々しく迫ってきます。マリアの象徴的な存在が、希望と再生の鍵として物語の中心に据えられているのも感動的です。
魔法と人間性、再生への祈りが美しく交錯する『Ave Maria』は、ファンタジー好き必見の作品となっています。