第40話 開戦

 十月末。

 陛下が帰ってこられてすぐ、マグナ連邦がソルアラ王国に宣戦布告を告げた。


 ほぼ同時に、およそ五年前に廃嫡したルナ王子を王家により戻し、王位を受け渡したとの報が広まった。しかし、簡潔な儀式を済ませて間も無く陛下は息を引き取った。


 騎士団にもその影響が一気に押し寄せた。


 まず、護衛任務でマグナ会談に行っていたダウン団長が、怪我を負って帰ってきた。襲われた陛下らを庇った際の負傷だそうだ。立派な働きっぷりである。

 命に別状はないらしいが、怪我が治るまではしばらく療養すると。


 続いて、ルナ及びダウンの指名で、陛下の専属騎士にハンクが選ばれた。

 これには多少の批判はあったようだ。

 彼は現在、平騎士よりは上の階級にいて、実力で言えば十分ではあるが、いきなり王の専属にするには残してきた功績が少ないのでは、と。


 しかし逆にそれが救いにもなった。

 戦争を控え、王国内でも盤面がごちゃついている今、ルナの命は常に狙われていると言える。いつ命が奪われてもおかしくない。

 そのとき責任に問われるのは間違いなく護衛の騎士だ。この役柄を既に地位ある人が手にしたとき、ルナを狙う理由に、「護衛騎士を上階級から引き摺り下ろす」ということさえも加わってしまうかもしれない。

 実力があっても地位がある人なら――いや、そもそも誰も引き受けたくないだろう。ハンクが善人なだけだ。


 レイの方は、静かに「ヨア・セブンスの専属騎士」を降りた。ヨアとルナが同一であることは世間に隠したため、わざわざ降りる必要はなかったが、城を去る日に備えて余計な荷物は下ろしておくべきだと判断した。


 初の対外戦争に向けて準備が整っていく。


 そんな中、ハンクに呼ばれてレイは、久しく訪れていなかった城の隅の部屋を覗いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る