第77話 光と闇は混ざらない

 ドン、と大きな音を立てて光と闇がぶつかる。目を凝らすとその中心にはルナとイオの姿がある。


 交わって、ぶつかって、はじけて。少し離れて、またぶつかる。


 光速で展開される戦いに、たかが齢十七のレイじゃついていけない。

 たとえもう三年長く生きようとその非力さは等しい。隣のハンクも呆気にとられて手出しできない。


 でも、それは本来彼らだって同じではないのか。


 だって、ルクスを宿したあの身体はルナで、魔王を宿したあの身体はイオのものなのだから。


「何この、人智を超えた戦い」


 気がつくと、背後にルートがいた。扉を閉め終え、浜辺まで駆けつけたのだろう。


「このままだと危険じゃないですか」

「何、光が劣勢なの?」

「そうではなくて。ルナ様の身体が、もたない」


 ルクスは人の限界を理解できているだろうか。本来ある肉体の性能を限界突破し続けて、容赦のない魔王を倒しきれるだろうか。


 神話に語られる戦でも、女神は苦労して魔を封じたといわれている。

 実際、彼女は教会で、自分は闇に敗れたと認めた。

 ここでも同じ結果が出ないとは限らない。


 身体をルクスに託す直前、ルナはレイたちに「俺を守れ」と言った。

 使命を果たさなければ。


「でも、どうする?この戦いに割り込むのは野暮だよ」

「外野を整えます」


 神々の争うところには入れずとも、せめて自分にできることを。


 剣を握り、周囲の魔獣たちの処理にあたる。


 魔王は、魔獣を操りルクスに向かわせている。

 彼女の光があれば対処は一瞬だが、魔王本人と対峙しながらいちいち振り払わなければならないのも厄介だろう。


 幸い上級魔獣はいない。低級魔獣が数で圧倒してきているだけだ。


 ルナに授かった魔力の残りも併用しながら、海岸線を掃除していく。

 レイの意図に気付いたハンクも加勢。ルートも援護に回ってくれた。


 浜辺全体を見渡せばキリがないが、レイたちの周囲は着実に数を減らしていく。


 だが人間勢はきっと、そちらに夢中になりすぎた。


「レイ!あぶ……」


 かろうじて気付いたルートが叫びかけた。

 しかし彼さえも出来たのはそれだけだった。




 気付いたらレイは、浅瀬に倒れていた。砂混じりの波が顔を汚す。

 側頭部がガンガンする。そこでようやく、自分が攻撃を受けたことに気がついた。

 まだ意識があるのが不思議なほどグラグラする。


 赤い空。

 翳された掌。

 感情のないイオの顔。


 ――死んだ、と思った。


 カッと視界が一瞬白くなって、眼前で光と闇がぶつかる。闇は目の前に留まって動じない。

 息苦しくなってくる。空気が薄い。視界がチカチカと揺らぐ。


 世界が遠のく。

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