7 あの人のように笑いたい
第43話 国境は破られた
十一月上旬。
マグナ戦争第一会戦は、ソルアラ王国北の山にて起こった。
この山は王国各地に繋がる川の源流にあたる。
相手国がまずここの陥落を目指すのも当然だろう。
山の民族長のモンは、女神の敬虔な信徒であった。
前陛下とはそれなりに親しくやっていたし、現国王のことは幼い頃から知っている。彼に託された、国境を守る自身の役割を誇らしく思っていた。
結界が消えてからしばらく続いていた紛争も、山の民たちは懸命に抗った。
だから今回の戦争も、力を合わせてどうにか国を守ると誓っていた。
「――武器を捨てていただけますか、モン族長。」
獣の血の匂いを放つ刃が首元で光るのを確認して、モンは呆然としていた。
どうして、こんなことに。
「裏切るつもりか」
雪の冷気を纏った剣をこちらに向けているのは、他でもない、先程まで背を預けて戦っていた、山の若者たちだった。
「女神より王国を護る責務を仕った山の民として恥ずかしくないのか」
「これも、祖国ソルアラのためです。余計な抵抗をすれば戦士や民の苦しむ時間が増えるのみ、更に言うなら国の立ち位置が悪くなる一方です。」
負ける前提で話を進めるんじゃない。
そんなのは、戦わない口実だ。
獣の通り跡があるせいで安易に見えるだけの険しい山道のようなものだ。
この国にはまだ、戦う理由が――勝てる希望があるというのに。
「おまえたちは、愚かだな」
挑発したわけでも、貶したわけでもなかった。
純粋に、ただの感想として、ポツリと呟いた。
山の若者たちは外の国に憧れていた。
対してモンは、紛争がある程度落ち着いた後も保守的な姿勢を取り続けた。
それが若者たちの反感を買ったのは言うまでもない。
とはいえ、このような暴力的手段を選ぶあたり彼らもまだまだ未熟だと感じざるを得ない。
モンは他に一人、外の世界に憧れを抱いた若者を知っている。
しかし、賢明な彼ならこんな手段は選ばない。
「族長。僕らだって、あなたを傷つけたいわけではないんです」
「…その程度の覚悟も持てぬ臆病者に、国のためを語る権利などはない」
投降の意思がないことを確認したためか、モンは拘束され集落の隅の空小屋に連れて行かれる。
そこには既に、山の老人たちが数名捕まっていた。
モンは、まだ希望を捨てていなかった。
女神は自分側に微笑むのだと信じていた。
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