第45話 山麓

――ひでえ有り様。


 パウルは、山の麓に位置する村に辿り着いて、思わず顔を顰めた。


 随分むごい惨状である。 

 山が敵の手に落ちた時点で、村民は避難させておいた。勇ましく残ろうとする者もいたが、総力戦にするにはまだ早いと陛下は判断した。聡明な判断だったと思う。


 木や建物の多いこの村には火攻めで襲いかかってきやがった。マグナの奴らも馬鹿じゃないらしい。

 お陰でこの村の特産である果樹が、灰になって焦げてしまっている。かわいそうに。まるで用無しとでも言われたみたいだ。確かに収穫時期は一ヶ月ほど前に過ぎたけれど。木が育つのにどれだけ時間がかかると思ってるんだ。


 まあ、しかたないよな。戦争だもんな。


 そう心の内で呟いて、仲間の傍へ駆け寄る。


「戦況はどうだ?」

「見ての通りですよ」

「死傷者は?」

「怪我人、特に火傷した人は沢山います。死者は、ちらほら見られますが、ダウン団長の想定よりは少ないです」


 それはよかった。いやよくはないか。

 とりあえず、団長の狙い通りではある。


 ならばそろそろ頃合いか。


「じゃあ、この村は撤退だ」

「え、良いんですか」

「消耗するよりいいとよ」


 ダウン団長曰く、「次が本番」だそうだ。

 流れ的に、次に戦場になるのは城の北の平原。城を守る戦いとなる。

 これまで、無理だけはするなと指示してきた陛下も団長も、次は頑張れと言うだろう。きっと死者数も桁が代わる。


 そう、しかたない。これが戦争なんだから。


「パウルさん、俺ら、勝てますかね」


 荷物を抱えて焦げ臭い戦場から引き揚げながら、仲間の一人がパウルの名を呼んだ。


「不安になってんのか?」

「パウルさんは不安じゃないんですか?だって、あっちは圧倒的に数が違うじゃないですか。」


 そんなこと言ったって。

 別にうちの騎士団だって戦力で言えば劣っちゃいない。

 冬が明ける頃に魔王復活が起こると宣告され、我が騎士団も徐々に力を肥やしてきた。確かに、向こうが抱える数の暴力がこちらには痛く刺さるが、個々の実力で見ればこちらも良いところじゃないか。


 ただ、不安がないと言えば嘘になる。

 核となる人物がいない。

 ダウン団長は怪我のため戦場に立てる状態じゃないし、あとは皆同じくらいの腕の一軍って感じだ。今副団長の肩書を背負っているエン――彼も強いけれど、どっちかというと人格が評価されてその地位についたようなもんだし。


 どうすんだろうな。

 肉体労働しか能いのないパウルでは何もできない。


「馬鹿。勝つんだよ」


 仲間を励ますことくらいしか。


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