第47話 虎視

 ――騎士団の士気がひどく低い。


 訓練場で剣を交えながら、カイはその行間をじっと読み取っていた。


 陛下は騎士を捨て駒にするつもりだ、と数名の騎士たちが噂していた。

 噂は好きじゃない。

 たとえそれが真実であろうと、第三者がそんなことに首を突っ込んで野次を飛ばすのは、美しくない。


 ただ、そんな噂が起こる理由も理解できなくはなかった。


 第一に、ルナ陛下。

 謎が多すぎて信頼し難い。正当な後継者はサンズ王子ではなかったのか。

 魔王封印のために戻ってきたのだとしても、存在すら忘れられていた王子が仕切る政治には些か疑問を抱く。


 第二に、騎士団の戦力。

 我らがトップである団長を失くした、最終兵器がいない騎士団。なんだか心許ないと感じているのはカイだけではないはずだ。


「――怖い顔してるよ」


 訓練場の隅に座って休んでいると、同僚のレイがしゃがみ込んで話しかけてきた。

 珍しい。いつも一人で淡々と剣を振っている彼女が。


「戦争が起こっているんだから、色々考えもするよ」

「不安?」

「それもひとつあるかな」


 カイの心情とは裏腹に、彼女はどうも落ち着き払っているようだった。


「レイは、どう?」

「戦争は心が痛い。でも、戦う覚悟はできてる」


 彼女はしばらく忙しそうにしていて、まともに喋る機会がなかった。

 見ない間になんだか雰囲気が変わった気がするのは気のせいだろうか。


「心強いね」

「よかった」


 ふっと彼女が微笑んで、カイの目が眩む。


 ――いや、気のせいじゃない。


 貫禄がある、というか。オーラがある、というか。

 眼光と表情と佇まいとの全てが、虎のように、獅子のように、靱やかな気高さが備わっている。


「それじゃ私行くから、見てて」


 不意に立ち上がって、彼女は遠くを振り返った。

 視線の先には、エン副団長がいる。


 見てて、とはどういうことだろう。


 まもなく、彼女は音もなくそちらへ歩いて行った。

 やはり、獲物に近寄る捕食動物さながら。



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