第24話 今世での初めてのあいさつ

 前世の瑳百合さんの生まれ変わりと思われる美少女。


 外を眺めている。


 俺は一生懸命、自分の方に向いてほしいと願っていた。


 その願いが通じたのか、彼女は俺の方に体を向けてきた。


 微笑んでいて、それが俺の心を沸き立たせていく。


 彼女のそばにいる俺。


 ここまでの至近距離で、しかも瑳百合さんがこちらを向いた状態で会うのは初めてだ。


 前世であいさつをした時も、ここまでの状態ではなかった。


 なんと、素敵な人なのだろう……。


 そばに来ているからこそ、その思いはより強くなる。


 俺は胸のドキドキが一気に大きくなってきた。


 声が出てこない。


 こちらに振り向いてくれたら、声をかけることができると思ったのに。


 結局、俺には無理な話だったのだろうか……。


 そう思いかけていた。


 しかし、一方で、


「このままでは前世と同じなってしまう。それは絶対に避けるべきだ!」


 という声が心の底から湧き上がってくる。


 俺は前世を乗り越えなくてはいけないんだ!


 その思いの方が強くなった俺は、決断する。


「お、おはようございます」

 

 少しどもったが、なんとかそう言いながら、頭を下げた。


 今世での初めてのあいさつ。


 もしこれで彼女が俺のことを思い出してくれれば、一気に仲が良くなるという気がする。


 でもそれは難しい話だろう。


 前世のことを思い出せる人は、とても少ない。


 俺だって、前世の時は前々世のことを思い出すことができなかったし、今世でも思い出すことができたのは、すのなさんに振られて以降のことだ。


 でも普通の人の間柄よりは、親しくなれる可能性はあると思う。


 心の底では、俺に対する好意があると信じたい。


 どういう対応をしてくるだろうか?


 俺がそう思っていると、彼女は少し驚いた表情をしている。


 もしかしたら、嫌われたのでは?


 しかし、その表情は一瞬のことだった。


 すぐに今までの微笑みに戻り、


「おはようございます」


 と返事をしながら、頭を下げた。


 俺は彼女にあいさつをすることができた。


 うれしさがこみあげてくる。


 大きな第一歩だ。


 でも、これだけでは足りない。


 次は名前。


 もちろん、これは同じクラスにいるので、自然と覚えていくものだ。


 しかし、お互いに教え合ってこそ、お互いに意識をし始めるものだと思う。


 今ここでせっかくあいさつをしたところなのだ。


 それだけで終わると、仲良くなるのが遅れてしまう。


 名前を教えてもらうべきだろう。


 あいさつをして、一旦はおさまり始めていた胸のドキドキがまた大きくなってくる。


 でも、それを乗り越えていかなくてはならない。


 俺は、


「あの、よろしければ名前を教えてもらえませんでしょうか? 俺は島森海定と言います」


 と言った。


 彼女はどう思うだろう?


 前世のことを思い出していないと思われる彼女にとっては、初対面の俺。


 その俺に、あいさつだけならまだしも、名前を聞かれるというのは、困惑してしまうことかもしれない。


 困惑だけならいい。


 もしかしたら、嫌な気持ちになるかもしれない。


 時が経てば知ることになるお互いの名前。


 しかも、彼女は前世で俺に好意を持っていた。


 それでも今世では初対面な人に、いきなり聞かれたら、嫌になる可能性はないとはいえない。


 しかし、もう言ってしまったことだ。


 嫌に思った場合は、時間をかけて、俺の印象を良くしていくしかないだろう。


 俺はそう思った。

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