第56話 二人が恋人どうしになってうれしい
伸七郎は、初林さんとの昨日の夜のやり取りを話し終わった。
幼馴染である程度心が通じている相手でも、恋人どうしになるのは大変だということがよくわかった。
いや、逆に、幼馴染だからこそ、難しい面があったのかもしれない。
ただ伸七郎の話を聞いていて思ったのは、伸七郎の初林さんに対する一途な想いだ。
あれほどモテるのだから、既に何人かの女性と付き合っていたとしても、別におかしくはないと思う。
しかし、伸七郎にはそういうところは全くなかった。
サッカー一筋だったのが一番の理由だろう。
しかし、心の奥底に初林さんへの想いがなければ、他の女性の方に心が動いた可能性はなかったとまでは言えない気がする。
初林さんの方も伸七郎に一途だったようだ。
でも伸七郎とつり合いがとれないと思っていて、それが伸七郎の告白を躊躇する大きな理由になっていたようだ。
俺は初林さんのことはそれほど知っているわけではない。
しかし、容姿や評判を聞く限り。素敵な女性だという印象を持っていた。
伸七郎と素敵な恋人どうしになれそうな気がしていた。
二人が恋人どうしになってくれて、自分のことのようにうれしいし、このまま結婚まで行ってもらえると、俺としては、とてもうれしい。
そう思っていると、
「舞居子ちゃんと恋人どうしになれたのは、お前のおかげだ。感謝してもしきれない」
と言って、伸七郎は頭を下げる。
「俺は別に何もしていない。ただちょっとアドバイスをしただけだ。うまくいったのは、お前の想いが初林さんに通じ、初林さんもその想いに応えたからだよ」
「お前っていつも自分のことを誇らないよな。たいした男だぜ」
「いや、だって、俺、お前に、告白した方がいいぞ、って言っただけだし。褒められるようなことは何もしていないよ」
「お前、いろいろ細かいアドバイスをしてくれたじゃないか。それがとてもよかった。改めて、お礼を言いたいと思う」
「俺としては、お礼を言われるほどのことはしていないだけどな。でもその気持ちはありがたく受け取っておくぜ」
俺たちは微笑み合った。
「さて、そうなると、次はお前の方の恋人づくりだな」
「俺の恋人?」
「お互いに夏休みまでに恋人を作ろうと言ったじゃないか。俺の方は、舞居子ちゃんと恋人どうしになれたのだから、お前も作らなきゃ。今度は、俺がお前を応援する番だ」
「ありがたいとはもちろん思っている」
「今までは聞かなかったけど、好きな女性はいるのか?」
俺は一気に恥ずかしい気持ちになる。
「いることはいるんだけど……」
「いるんならその人に向かって想いを伝えていくことになるのだけど、想いはまだ伝えていないのか?」
「伝えるどころか、あいさつもロクにできていないんだ」
俺は乃百合さんのことを思い浮かべながら話す。
「お前が俺に言った通り、自分の想いを伝えていくのが大切だと思う。どういう女性かはわからないが、お前の想いを伝えていけば、その女性はきっとお前のことが好きになり、恋人どうしになれると思う。夏休みまでに、その女性と恋人どうしになることを期待してるぜ」
伸七郎はそう言って俺を励ました。
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