第55話 恋人どうしになる俺と幼馴染 (伸七郎サイド)

 俺、井登伸七郎は、俺の告白に対する舞居子ちゃんの返事を受けようとしていた。


 舞居子ちゃんは俺のことを好きだと言ってくれている。


 このまま、


「伸七郎ちゃんと付き合います」


 と言ってくれることを期待していた。


 しかし……。


「それでも決断はなかなかつかなかった」


 と言った後、黙ってしまった。


 俺に電話してくるほどだから、告白にOKしようと思っていたんだと思う。


 しかし、俺と話をしている内に、その決意が揺らいでしまったのだろう。


 どうも舞居子ちゃんは、俺とつり合いが取れているかどうかということを気にし過ぎているような気がする。


 そこで、俺は、


「俺は舞居子ちゃんそのものが好きなんだ。舞居子ちゃんのすべてが好きなんだ。この気持ち、わかってほしいんだ」


 と言った。


 言っていて、自分が恥ずかしくなってきたが、そんなことを言っている場合ではないだろう。


 舞居子ちゃんはしばらくの間、黙っていたが、


「ありがとう、舞居子ちゃん。わたし、伸七郎ちゃんの想いを受け入れる。これからは単なる幼馴染ではなく。恋人どうしとして、よろしく」


 と恥ずかしそうな口調で言った。


「ありがとう。俺の恋人になってくれて。今まで生きてきた中で一番うれしい」


「そこまで喜んでくれて、わたしもうれしい」


「俺、舞居子ちゃんのことが好きだ」


「わたしも伸七郎ちゃんのことが好き」


 舞居子ちゃんは涙声になっている。


 俺も目から涙が流れてくる。


 しばらくの間、俺たちは、恋人どうしになったうれしさを味わっていた。


 やがて、舞居子ちゃんは、


「伸七郎ちゃん、恋人どうしになったからには、なるべく一緒にいたい」


 と甘えた声で言ってくる。


 今まではなかったことだ。


「俺もなるべく一緒にいたいと思ってるよ」


「うれしい。まずは登校を一緒にしたい」


「俺も一緒にしたいと思ってる」


「下校の方は、部活の関係で時間が合わないことが多いから、いつも一緒というわけにはいかないと思ってる。でも時間が合う時があったら、一緒に帰りたい」


「俺もなるべく一緒に帰りたいと思ってる」


「デートもできるだけたくさんしたい。今まで何もできなかったんですもの。思い出をたくさん作っていきたい」


「これから夏になってくるし、いろいろなところへ行こう」


「今から楽しみでしょうがない」


「俺も楽しみにしてる」


「それと、伸七郎ちゃん。恋人どうしになって間もないのに、こんなこと言って申し訳ないんだけど、わたしって、結構やきもちやきなの」


「やきもちやき?」


「そうなの。幼い頃、仲良く遊んでいた時、伸七郎ちゃんと仲良くしてくる女の子に対して、決していい気持ちはしていなかった。子供ながらに、ムッとしたりしていたの。今までは疎遠だったから、わたしのそういうところがわからなかったかもしれないけど、伸七郎ちゃんはモテるから、多分これからやきもちをやくことが多くなるかもしれない。でも、それは伸七郎ちゃんのことが好きだから。好きでなければ、やきもちをやくことはないと思っているの。この気持ちはわかってほしい。それで、わたしのことを嫌いにならないでほしい」


 舞居子ちゃんの言う通り、幼い頃、俺が舞居子ちゃん以外の女の子と話をしていると、なぜだかわからないが、舞居子ちゃんはよくムッとしていた。


 今思うと、もう少し舞居子ちゃんの心情を理解すべきだったと思う。


「やきもちをやかれるというのは、それだけ俺のことを想ってくれるということ。大丈夫。受け入れられると思う」


「そう言ってもらえるとうれしい」


 舞居子ちゃんは涙声でそう言った。

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